令和4年8月

投稿日時

浄土歌壇
堀部知子 選 投歌総数190首

宮城 西川一近

茶席より目に入る庭園の一角に濃き紫の菖蒲咲き満つ

さりげなく詠いながら一首を読み終えた後に、自ずと情景が見えてきて、その菖蒲の紫があざやかに目にうかんでくる。濃き紫ゆえに。

青森 中田瑞穂

ワインカラーの似合う女医さんにっこりとあなたを担当と胸ときめかす

上句の立ちあがりが良く、読む者のそれぞれが女医さんを想像する。患者さんにとっては特に担当医には関心がある。結句にもう一工夫欲しかったが。

大阪 安藤知明

レジ横に募金箱あり釣銭を入れウクライナの応援支援

今時の一首。「釣銭を」におおげさでなく、気楽に支援の気持ちを込める。コンビニでもこのような場面を見かけるが、私自身も募金をしたばかりだ。

埼玉 山本 明

退院の日取り決まれば少年の如く華やぐ夜を過ごしき

兵庫 足立宏美

幸運を運びくるごと石斛の蕾はきっと明日は膨らむ

岡山 小川信男

団参を始めて四十五回数う最後かも鞭打つ九十三才

石川 五十嵐一雄

耳とおくなりたる二人ワンテンポずれて大きな声に笑ふも

神奈川 内田陽子

芍薬の花のもつれをゆっくりと解き去りゆきぬ風の優しさ

福岡 堺 和彦

校正に心注げば新緑の光に部屋の染まりて清し

愛知 三澤貞子

紫陽花がわが部屋内を華やかに真白き壁に映える桃色

山口 小田村悠紀子

布団干し掃除機をかけ風通す受験生の子に密かなエール

奈良 中村宗一

橿原を過ぎれば飛び込む国見山見慣れし山に気持ち落ち着く

神奈川 相田和子

二羽の鴨つかず離れず水面ゆく清き流れに影を映して

元歌の下句は「影をうつして清き小川に」であった。

浄土俳壇
坪内稔典 選 投句総数249句

埼玉 山本 明

蚊に訊くが就寝時間は知らんのか

寝ようとしたら寄ってくる蚊を詰問している。この気持ち、よく分かる。それはともかく、蚊と話す心の余裕がいいなあ。

鳥取 徳永耕一

万緑に住みて水音風の音

「水音」「風の音」という対句的表現が快さを生み出している。万緑に住むという言い方も快い。

大阪 津川トシノ

窓青葉うつぼ水槽にて眠る

風景がありありと目に浮かぶ。このうつぼ、目覚めたらどうするのだろう。なんだか気になる。

滋賀 三宅俊子

しばらくは図鑑の上の天道虫

福岡 谷口範子

吊橋の名はゆらりんこ山若葉

和歌山 福井浄堂

大谷のホームラン待つ薄暑かな

愛媛 千葉城圓

四五日も庭掃かずおり夏落葉

東京 樋口七郎

あじさいの雨にぬれてる都庁前

大分 吉田伸子

春の駅鍵盤の上指踊る

滋賀 山本祥三

一万歩とても無理だが五月晴

石川 五十嵐一雄

一つだけごつんと小言春の雷

兵庫 嶋田靜子

音読は「雨ニモマケズ」梅雨曇り

福岡 古賀幸子

車椅子牡丹に触れる所まで

青森 中田瑞穂

吟行と称する散歩梅雨晴間

京都 根来美知代

カーナビに毎朝返事若葉風

大阪 西森正治

たんぽぽの絮毛がぽぽと言ふのかな

大阪 光平朝乃

できたての鶏ハム切りて父の日よ

大阪 大内純子

冷蔵庫に水無月あるを忘れない

東京 山崎洋子

母の日や一番小さい母の靴

アメリカ 生地公男

柏餅明治の母の蘇る

山梨 山下ひろ子

ばあばだよ玉蜀黍の花咲いた

長崎 吉田耕一

検温はコロナの関所汗を拭く

青森 井戸房枝

緑陰にマスクをはずす友笑ふ

原句は「マスクをはずし笑ふ友」という説明的な表現だった。「はずす」「笑ふ」と二つの動作(動詞)を並べたことで緑陰がより楽しくなった。