令和5年4月

投稿日時

浄土歌壇
堀部知子 選 投歌総数232首

東京 代田ユキ

秒針はせはしく時を刻みをりわが残生も音なく刻む

ひと日ひと日をいとおしみ過ごされる作者を想像し、特に年を重ねるほどにその思いは一入である。

大阪 林 孝夫

カンボジアに帰る孫たちたこ焼食べ関空に向かう深夜便に乗る

この一首に「たこ焼」は大いに働きをみせる。関空に向かうお孫さんの姿が目に浮かぶようだ。

滋賀 大林 等

わが術後遠くの山の稜線がすっきり見えて春はそこまで

術後の安堵と喜びが一首に溢れている。見馴れている山もすっきり見えて春の訪れを知らせる。

福岡 上野 明

冬至過て家庭菜園のキャベツが巻き出し追肥す一握りずつ

京都 根来美知代

鉄棒にしっかり端を括りつけ保母は背伸びで大繩回す

埼玉 山本 明

雪の富士へ川鵜飛び立つ初春の日は欄干を朱に染めにけり

富山 山澤美栄子

毛糸の帽にスーパーの袋の地蔵様やさしき人はどなたでしょうか

群馬 伊藤伊勢雄

今日の昼飯はお稲荷さんと茹で卵小学時代の遠足のよう

神奈川 相田和子

帰りたい帰りたいと施設より友の願いは受話器に響く

大阪 永田真隆

鬼の面つけたる小さき子が鬼におっかなびっくり豆をまきけり

大阪 橘ミヨ子

学童の黄色い声が寒空の塀の外より響いてくるよ

宮城 曽根 務

父逝きし日数を目指し一千日超えて歩むは喜寿の初春

大分 小林 繁

冬うらら軒端に吊す大根のラインダンスの足並揃う

福井 杉谷小枝子

コロナゆえ逢えずに召されゆく人の面影しのぶわれも老いたり

神奈川 里中 信

春の遅い弥生の街に呼びかけは赤十字の募金今はなつかし

「春遅い」「赤十字募金」に「の」を加えた。

浄土俳壇
坪内稔典 選 投句総数230句

青森 中田瑞穂

「春遅い」「赤十字募金」に「の」を加えた。

このローカル線、五能線でしょうか。季語「春動く」がよく効いて、私はまた五能線に乗りたくなっています。

長崎 吉田耕一

青き踏む小川をひょいと飛び越えて

「ひょいと」の軽さがいいです。もっとも、私などは、このようにひょいと飛ぶとその後が怖い気がします。吉田さんはまだ大丈夫?

東京 山崎洋子

青山をマネキン抱え春早し

この青山は東京の町の名。「マネキン抱え」に早春の勢いがあります。

大阪 西岡正春

立山は動かず大根吹かれをり

佐賀 織田尚子

聞く見える座る歩ける初日かな

京都 根来美知代

葉桜や朗読の声よく揃い

滋賀 野口直子

春立ちて児らは地べたの移動図書

長野 出澤悦子

女正月テイクアウトのハンバーグ

大分 吉田伸子

窓越しの友との対面春の昼

兵庫 堀毛美代子

立春やまずは珈琲でも飲もか

福岡 吉野ふじの

紅梅や気儘律儀な老婆たち

長野 井原 修

手話の児に手話をおそわり春立つ日

滋賀 小早川悦子

漂着の鯨弔ふ春の夕

神奈川 上田彩子

合同句集ひもとく今宵久女の忌

大阪 永田真隆

ドッグラン立春の風光りけり

大阪 光平朝乃

堀り出せる雪中キャベツ青き空

東京 津田 隆

梅の香や小鳥ひらりと一羽二羽

山梨 山下ひろ子

杖置いて覗き込む母牡丹の芽

アメリカ 生地公男

呼ぶ猫の聞かず存ぜず日向ぼこ

秋田 保泉良隆

受診待つ爺様馴染みのちゃんちゃんこ

石川 山畑洋二

五十年前の瞳の雛飾る

原句は「五十年変わらぬ瞳」。こうした方が、印象が強くなるか、と思います。