令和5年5月

投稿日時

歌壇
堀部知子 選 投歌総数157首

愛知 𠮷田喜良

五日目にやっと姿を現わした雪の伊吹はひときわ眩し

滋賀、岐阜両県の境にある薬草の豊富な伊吹山。やっと五日目に姿を現わしたその雪山にひとしおの作者の思いが伝わる。その感動は結句に…。

京都 根来美知代

婆ちゃんは頷いているだけなのに話題途切れぬ五月のベンチ

この場面が見えてくるようだ。そしてその声も聞こえてくるようだ。ありふれた場面をよく一首に納めましたね。二句、三句目が効いている。

栃木 小峰新平

冬枯れの芝増上寺の桜木や梢の先が赤く色づく

三句目、「桜木の」であったが、「桜木や」とした。桜木の梢の先に目を止めたのはさすが、春への思いがほのぼのと伝わりぬくもりをもたらす。

群馬 新井日出子

祖父の植えし村長記念樹の木蓮は蔵の横にて数百年咲く

宮城 西川一近

高三の孫は受験日淡々と普段通りに出かけてゆけり 

滋賀 中村ちゑ

夜の明けの頃の下弦の月淡く春立ち初むる大気に和む

兵庫 堀毛美代子

老いゆきて夫を忘れる日が来るの我が私でなくなる時が

長崎 片岡忠彦

人垣や大道芸のギター弾く和む心の昭和を聴けり

岡山 谷川香代子

手作りの雛人形をくれし姉高齢者施設に入りしままに

佐賀 早田なつ代

夜半に覚め老いの侘しさふとよぎる短歌に寄り添う心穏しき

大阪 津川トシノ

イヌフグリの群れ咲く坂をランドセルの飛んだり跳ねたり急に屈んだり

山梨 佐藤悦美

のためカロリーの高き食事をと今日も料理の番組を見る

大阪 大貫尚子

独り居の食卓なれど並べ終えいただく前に目より楽しむ

原作の初句は「一人の」であったが、「独り居」は適切であったかどうか……。迷いもあるが。

俳壇
坪内稔典 選 投句総数198句

山形 阿部美智子

へらに付く酢めし舐めるや雛祭り

楽しさ、うれしさを具体的に表現しています。家でちらし寿司を作るとき、私はうちわであおぐ役ですが、ちょいちょいとつまみ食いをします。

長崎 平田照子

吟行へ友と来し丘ミモザ咲く

「ミモザ咲く」で情景が具体的になりました。名句が出来たことでしょう。

滋賀 小早川悦子

手の窪ですべらせ蒔くや花の種

蒔くようすがとっても具体的です。「575の言葉の絵」になっています。

山梨 山下ひろ子

山笑ふカバの映画を観に行く日

石川 山畑洋二

日に解けし風に解かれて辛夷咲く

山口 沖村去水

木蓮や三日の蕾十日花

アメリカ 生地公男

素頓狂南加に綿雪積もるかや

東京 山崎洋子

子は母に触れていたくてチューリップ

大阪 光平朝乃

丁寧に春耕したる線路端

神奈川 上田彩子

ブランチはデッキでパスタ木の芽晴

青森 中田瑞穂

バスに乗りこれより一人佐保姫に

和歌山 福井浄堂

立春やカレーとジャズと飛行船

岩手 佐々木敦子

旅立ちの子の荷に添へしスイートピー

三重 藤井弘美

山萌えて鶏の声響く朝

兵庫 小野山多津子

厨の灯万の頭を釘煮する

滋賀 野口直子

味噌や筆に任せて文二通

長野 出澤悦子

美容院の珈琲の香や春の昼

群馬 長田靖代

初物は誰にぞと摘む蕗の薹

大阪 津川トシノ

指先が弾むよ春のレース編み

原句は「指先が楽しい」でした。「楽しい」を具体化しました。具体的な表現が大事です。