浄土宗新聞

一筆ごとに心が踊る!奈良筆に宿る、書く楽しさ 伝統工芸品・奈良筆 有限会社 管城

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「贈り物に添える一言を小筆で書くなど、筆を持つ機会が増えたら何よりです」と鈴木さん。小筆1本千数百円~。10月8日~14日には、新宿高島屋でポップアップがあり購入も可能

三重県の静かな住宅街、庭に石楠花の木が植えられているのは、奈良筆を販売する「(有)菅城」の工房。
 奈良筆は、奈良県奈良市周辺で昔から作られている筆で、伝統的工芸品に指定されている。
 その工房で、筆づくりに勤しんでいるのが、代表取締役の鈴木一朗さん。
「奈良筆を作る工程は百以上あります。一般的な筆は分業で作られますが、僕は一人で作業するんです。そうしないと、求められた筆を作れないですから」
 鈴木さんの指で、筆の命とも言える動物の毛がまとめられ、魔法にかかったように美しく整えられていく。
 繊細な作業の連続だが、鈴木さんは、時間を見つけては人と会い、話をする。
「他の職人や問屋さんからは色々なことを教わり、お客さんからは、どんな筆でどんな字を書くのかを教わります。会って話すのは、筆作りをするうえで欠かせないことです」
 鈴木さんは「教わる」という言葉を繰り返す。それはきっと、「もっとよくしたい、挑戦したい」という思いの表れだ。
 現に鈴木さんは、書画用の筆の枠を超え、口紅を塗るための「紅筆」も制作。塗りやすさと筆の美しさが話題となり、瞬く間に人気商品となった。さらに、菩提寺への思いから珍しい筆も生み出した。
「祖父は興善寺さんの総代をしていました。僕もお寺の役に立ちたいと考えて、お寺で剪定された梅の枝で筆を作ったんです。それがいい感じにできて、その後、色々な方から依頼があり、桜や南天など様々な枝で筆を作りました」
 鈴木さんの筆はどれも本当に美しい。使ってみたくてたまらなくなり、好みの筆を購入して帰った。
 筆をおろすと、細めの毛束は墨をよく含み、気持ちよく筆が進む。自分の字なのに新鮮で、心が踊った。
 鈴木さんの言葉が蘇る。
「自分に合う筆を使えば書くのが楽しくなる。そうなると自分らしさが出て、表現も広がる。僕はそれが何より嬉しい」
(ライター:藤岡操)

店舗情報

左から興善寺の森田康友住職、鈴木一朗さん。興善寺で行われる写経会では鈴木さんの筆が用意されている
  •  管城 〒630-8304 奈良県奈良市肘塚町104-11
  •  TEL:0742-24-0444
  •  工房 〒518-0602 三重県名張市東田原625-134
  •  TEL:0595-65-3615
  •  ※鈴木さんからの購入等については要電話問い合わせ
  • ※価格は税込