浄土宗新聞

浄運寺(兵庫)本尊内部に仏像を発見 遊女の伝説残る寺院―子どもを宿した阿弥陀仏

浄運寺の本尊(左)とそのエックス線撮影写真。像の下部に小さな像と球状の物体の影がはっきりと写っているのがわかる(エックス線撮影写真提供=青木淳研究室)

浄運寺の本尊(左)とそのエックス線撮影写真。像の下部に小さな像と球状の物体の影がはっきりと写っているのがわかる(エックス線撮影写真提供=青木淳研究室)

兵庫県たつの市室津の浄運寺(大林敬明住職)本尊の内部から1体の仏像が発見された。同像が本尊内に納入された背景には、同寺に伝承が残る法然上人から教化を受けた遊女・友君が関わっているのではないかとされる。
その発見の経緯と像にこめられた思いについて、同像を発見した多摩美術大学・青木淳教授と大林住職に話を伺った。

法然上人ゆかりの寺院本尊から胎内仏発見

3月10日、兵庫県たつの市の浄運寺本尊・阿弥陀如来立像内部に胎内仏(仏像に納入された仏像)が見つかったことを多摩美術大学の青木淳氏が発表した。
青木氏は、宗教文化史・美術文化史を専門としており、鎌倉時代に活躍した仏師・快慶と法然上人やその弟子の関係について研究している。その一環として平成29年から3年にわたり、全国各地で快慶とその周辺仏師が製作した仏像をエックス線撮影を用いて調査をしていた。
平成30年3月に浄運寺の本尊・阿弥陀如来立像を調査したところ、像内の空洞に像高約18センチの仏像と12センチほどの球状の物体が納められていることが確認されたという。
この阿弥陀如来立像は、像高約79センチ、鎌倉時代中期から後期に快慶の流れをくむ仏師によって造立されたものとされる。青木氏によると、これら納入品は江戸時代ごろ、阿弥陀如来像を解体修理したときに納められたものと想定され、近しい時期に製作された可能性が高いという。
同寺は文治元年(1185)、法然上人の弟子・信寂(?―1244)の創建とされ、法然上人が遊女・友君を教化した伝承が残る。
大林住職は、この友君が、胎内仏に関係しているのではないかと話す。

遊女教化の伝承

法然上人が友君を教化する場面。高僧に直接話しかけることが難しかったため、友君は舟に乗って上人のもとまで向かったのではないかと考えられている。〈国宝『法然上人行状絵図』第34巻第5段(総本山知恩院蔵)〉

法然上人が浄運寺の建つ室津の地を訪れたのは、建永2年(1207)とされる。
この前年、法然上人の二人の弟子が後鳥羽上皇に仕える侍女を断りなく出家させる事件が起こり、上人は流罪の刑を言い渡された。京都から船で流罪の地へ向かう途中に立ち寄ったのが、「室の泊」と呼ばれた宿場としてにぎわうこの地だった。
法然上人の舟が港に着こうとしたとき、一隻の小舟が近寄ってきた。乗っていたのは、友君という遊女。当時宿場町であったこの地には、都からの貴人を今様や朗詠などで接待することを仕事とする遊女が多くおり、友君もその一人だった。
彼女は木曾義仲の第三夫人であったとされる。義仲が戦死した後、この地へと流れ着き、子どもを出産するも、その子はすぐに亡くなってしまう。生きる気力を失っていた友君だったが、室の泊の自然や人々の人情に救われ、遊女として生計を立てていた。
しかし、自身の行く末への不安を拭うことができなかった友君は、高僧と知られた法然上人にそのことを尋ねようとしたのだった。
友君が「私のこれまでの行いによる罪業の重さは承知しております。どうすればこのような身でも、臨終ののちに救われるのでしょうか」と尋ねた。
すると法然上人は、「たしかに、あなたの罪は軽くない。ほかに生きる道があれば生き方を変えるのもひとつ。もし変えることができないのであれば、阿弥陀さまを信じてひたすらにお念仏を申しなさい。阿弥陀さまは罪深いものこそ救ってくださるのです。決して自分を卑下してはいけません」と優しく説かれた。
友君はその答えに涙を流して喜んだ。その後、彼女は出家して、近くの山里に住み念仏一筋に生きて往生を遂げたとされる。

多くの女性の想いを受け

このような伝承から、浄運寺は後世にわたり遊女のみならず、多くの女性から信仰を集めた。友君が出家した際の姿を象った像が同寺に残っているが、それを納めた厨子は遊女から寄進されたものだという。
大林住職は、「友君がこの地にとどまったのは、義仲の供養のためとされます。おそらく法然上人から教えを受けた後も、浄土での再会を願い、お念仏をして夫と子の供養を続けたのでしょう。この胎内仏には、友君をはじめ、このお寺とご縁を結んだ女性たちの気持ちがこもっているように思います」と語ってくれた。
また青木氏は、「納められている仏像はまるで子どものようだ。球状の物体は遊具の『まり』にも見える。浄運寺は、歴史的に女性と縁の深い寺院。まるで母親に宿った子どもにも見える胎内仏の発見は、同寺や周辺の歴史を見直すきっかけになるのではないか」と発見の意義を語った。

浄運寺山門

浄運寺(じょううんじ)
住 所:兵庫県たつの市御津町室津168
TEL:079(324)0030
アクセス:山陽新幹線「相生」駅下車、車で約30分、
山陽線「網干」駅下車、車で20分
※参拝については事前にお問い合わせください

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