浄土宗新聞

【こころのケア】Webカウンセリング 3

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コロナ禍でのこころのケアをめぐる「新しい生活様式」

Q:嫁いだ娘を頼る母親をどうしたら良いか

母は、私の家から電車で1時間弱の所に父と弟夫婦と二世帯住宅で暮らしています。
嫁いだ長女の私は年に数回程度、両親や弟、義妹を訪ねていました。ところが高齢の母がコロナ禍による政府の緊急事態宣言以降、ほぼ1日置きに私の携帯に電話をかけて、不安を何度も繰り返し訴えてくるようになりました。長いと1時間になることもあり、介護施設の変則勤務で働く私にはかなりのストレスです。
両親は地元でお店をしており、お客さんの信頼も厚いです。その店を数年前に弟夫婦に譲りました。父は毎日お店に顔を出していますが、母はこれまでとは違って家で留守がちの生活です。家では義妹から厳しく注意を受けているようです。やがて母は感染予防もあって完全に外出しなくなり、「死にたい」「あれもこれもやらないと嫁に叱られる」と私に訴えます。ただ私は思春期の頃から母と折り合いが悪く、「今さら頼らないで」という不満もあります。
弟夫婦が最近、母を病院に連れていったところ、「不安神経症」と診断を受け薬物治療を始めました。父は母に無関心です。私は毎日、老齢の認知症の方を看ているだけに母と父、弟夫婦との関係が心配です。

Illustration:きりたにかほり
(Illustration:きりたにかほり)

A:意外に知らないままきた 母の寂しさを知る

お母さんは年齢的にも余裕のないなかで、きっとコロナ禍の恐怖、孤立感から「寂しさ」に悩んでいるのだと思います。
その「寂しさ」の原因は感染対策では埋め切れない〝心の居場所〟です。居場所とは建物や物理的な空間ではなく、自分が必要とされている人間関係です。それは立派であるとか、役に立つということではありません。
きっとお母さんは夫と〝二人三脚〟で高度経済成長期のお店を切り盛りしてきたのだと思います。あなたや弟さんの子育ても含め、〝心の居場所〟がその関わりにあったのです。そしてお父さんにはお店という居場所があるのです。留守をするお母さんに家族から「ありがとう」「おかげさま」といった「あなたを必要としているという感謝のことば」が素直に掛けられるといいですね。ただそのことを嫁いだ身のあなたが実家の人に言うのは、介護士という仕事柄もあって相手には不快かもしれません。困った状況が起こると〝悪者さがし〟をしたくなるものです。誰も〝悪い人〟はいません。関係が人を変えただけです。
そこで、あなたが無理なくお母さんに「必要としているよ」というメッセージを伝えてあげてください。私は介護職員や見守る家族に「聞き書き語り」の一時を数分間でもいいから作り、関係を深めることを勧めています。人生の1コマ1コマに愚直に耳を傾け、あなたがメモを取り語ってさしあげるのです。すると「母に成り代わっての語り」がお母さんを「語り継ぐ人にする」のです。関わりが具体的思い出となってお母さんに心の居場所が起こり、「寂しさ」は一時にしても解消され、「必要とされていた」自分を取り戻すことができます。そしてこんなやり取りの中で意外にも母と娘の行き違いや、知らないできたつながりが見えてきたりするはずです。
生活様式や価値観など、およそ人と人との生活に関わることの全ては文化となります。潔癖を求める過度な感染防止の生活様式が、人に無理強いする文化にならないことを願うばかりです。

迷わないためのお釈迦さまからのアドバイス

「お釈迦さまからのアドバイス」には、現代にも通じる人生を迷わずに生きていくためのヒントが、示されています。
ここでは「こころのケア紙面カウンセリング」であげた相談例に沿った「お釈迦さまからのアドバイス」からそのヒントとなる視点を提示します。

人間関係に悩んでしまったとき

自己を拠り所とし、

他を拠り所とするなかれ。

法を拠り所とし、

他を拠り所とするなかれ。

『大パリニッバーナ経』〈大般涅槃経〉/引用・浄土宗出版
『悩みによく効く! お釈迦さまの処方箋』

両親をはじめ、親戚、友人などさまざまな他者のおかげで今日の私たちがあります。
しかし一方で、他者からのアドバイスや助力をもらえてももらえなくても、最終的に決めるのは自分です。つまり、最終的に拠り所とすべきは、自己(自分自身)に他ならないということをお釈迦さまは言っています。
ただし、人間は、時に貪(むさぼ)ったり怒ったり愚(おろ)かな行動をとることもあり、人々がみな、そのような不完全な自己を拠り所とすれば、世界の秩序は乱れてしまうでしょう。ですから、「法(お釈迦さまの教え)に従って生きる自己」こそが真の拠り所となります。
その教えをわきまえた生活を忠実に実践することは難しいですが、私たちにもできることがあります。
「悪いことをせず、善いことをして、自分の心を清めなさい」。これは、お釈迦さまをはじめもろもろの仏さまが共通して説かれた教えです。
人との関係に悩んだときには、このお釈迦さまのことばにもとづき、自分がどうするかを考えてみてください。


富田 富士也とみた ふじや

子ども家庭教育フォーラム代表。教育・心理カウンセラー。千葉明徳短大客員教授、千葉大教育学部非常勤講師を兼務しつつ相談活動から若者の「引きこもり」をいちはやく問題提起する。『浄土宗新聞』『THE法然』『知恩』に連載。著書『甘えてもいいんだよ』『だっこ、よしよし、泣いて、いいんだよ』『心理カウンセラーを目指す前に読む本』等多数。