令和3年7月
浄土歌壇
兵庫 堀毛美代子
エプロンの蝶蝶結びを結び終えゆっくり動くわたしのひと日
評
この一首からは、大切なひと日のスタートがストレートに伝わる。上句の「蝶蝶結び」が効果的。
東京 蚫谷定幸
病持つ身であることもご縁にて人へのやさしさ習ふと知れば
評
謙虚な人柄が偲ばれる。下句にそれがリアルにあらわれていて、結句を上手に納め得た。
三重 奥田悦生
浄土宗新聞配る春のうらら檀家の笑顔われを励ます
評
詠われているご本人の様子がよく伝わり、具体的に詠われているなかで「春うらら」が効いている。
静岡 河合しのぶ
祈りには送信ボタンは要りません届きますよと静かに僧侶は
岡山 矢川忠彦
杖引きて八十路の妻と三千歩病に負けじと今日もまた行く
大分 小林 繁
逃げ水を追っかけまた追っかけて下校途中の子らの喚声
日に一首の作歌の旅の遠ければ時折休み楽しむ八十路 福岡
日に一首の作歌の旅の遠ければ時折休み楽しむ八十路
評
古賀悦子
岡山 小川信夫
待望の曾孫つぎつぎ話をす泣く子笑う子日々を楽しむ
滋賀 村木敬子
長病みも忘れる程に癒えて今日土手に膝つき蓬を摘みぬ
岡山 谷川香代子
リハビリ院の小さき池に新緑写り鯉の稚魚らは元気に泳ぐ
三重 瀧原信善
いつしかに降り初めし雨は音もなく土塀に画く逆さのグラフ
神奈川 相田和子
コロナ禍の数字は今日も多くして一人住む息子の暮しを案ず
愛知 横井真人
ぴかぴかのランドセル背に白い靴緑の道を子らは連れ建つ
埼玉 石村和子
老木の楓の子となる若苗は皐月の風に揺れて頼もし
兵庫 斎藤一義
新緑の奥津城に人見えず甍のごとく墓石照りいつ
評
三句目「人なくて」続句「照りたる」を直す
浄土俳壇
福岡 谷口範子
立ち直る雨後の私とチューリップ
評
雨に濡れて立つ「私とチューリップ」が瑞々しい。リズムも簡潔で快いです。
大阪 津川トシノ
初蝉や窓は二階の東向き
評
蝉を聴くにはこの場所じゃなくては、ですね。私の窓は二階の南向き、道路に面していて車がうるさい。でも、クマゼミはよく聞こえます。
埼玉 須原慎子
午前五時筍掘りのお誘いが
評
誘いに乗りましたか。朝掘りの筍、うまかっただろうなあ。「午前五時」とまず言ったところ、意外性があってとってもよい。
愛知 横井直人
春風や駆け出して行く白い靴
鳥取 徳永耕一
塔見えるげんげ田に置く魔法瓶
大阪 西岡正春
ものの芽や土の匂ひの妻帰る
愛媛 千葉城圓
筍を貰ひて木の芽摘みに行く
和歌山 福井浄堂
春風を独り占めして農作業
群馬 木村住子
水底に遊ぶ浮雲花菖蒲
愛知 鈴木吉保
鮎に聞く矢作の橋の野武士談
石川 五十嵐一雄
筆順の気になる「粛」や暮の春
岩手 岩手
雨に咲く岩手の花は桐の花
栃木 伊藤和子
おにぎりを分け合うふたり青葉光
青森 中田瑞穂
分け入りて花菜畑の蜂発たす
神奈川 中村道子
開け放す八百屋の梁の燕の巣
大阪 岡崎勲
江戸や肥後伊勢も競ひて菖蒲園
奈良 中村宗一
柿の葉やサバ寿司作る母がいた
石川 松平紀代子
爪立ちて手繰り寄せたる花あけび
東京 山崎洋子
ペコちゃんのセーラー服も更衣
神奈川 佐藤仲信
光明寺日曜法話初音かな
大分 小林客愁
たんぽぽのぽぽを捜しに旅に出る
兵庫 堀毛美代子
草餅の粒あんが好きこしあんも
評
「草餅や粒あんもこしあんも好き」が原句。語順を変え、リズムを整え、草餅をうまそうにした。