令和3年6月
浄土歌壇
群馬 新井日出子
彼岸だよ松の根方のカタクリが告げてくれたり先祖敬う
評
初句の語りかける呼びかけから、結句の「先祖敬う」への導きに、作者の力量を思い知らされた。
福岡 上野 明
福岡の娘のアパート訪ねては掃除洗濯炊事片付け
評
父上の奮闘ぶりが目に見えるように下句では詠われており、娘さんだから、奮闘できるのでしょうね。
大阪 安藤知明
会うことは叶わぬままに月日たち孫は進学す高校一年
評
まさに「歳月は人を待たず」で、会うことが叶わないだけに、作者の感慨はひとしおでしょう。
愛知 三澤貞子
今一度造幣局の通り抜けの八重桜見たし九十になりて
栃木 小峰新平
久久に深夜便つけサブやんの演歌に合わせ頭で唄う
滋賀 中村ちゑ
気忙しき合間をみつけ投稿を済ませ憩いぬ安らぎの刻
秋田 鈴木修一
学ぶ日を鉄路二時間通い来て点字読む児の指の素早さ
神奈川 内田陽子
手を合わせ祈るがごとき木蓮の蕾ふっくら開花も間近
宮崎 小野加子
待ちわびし校庭の梅咲き初めて少年野球の声響きたり
青森 中田瑞穂
添書きの友の優しさ身に染みて感謝感謝と呟きにけり
大阪 林 孝夫
お寺に行き写経をするに墨の匂いお経の響きにまた来月も
奈良 中村宗一
猪は土より出たる筍は味が悪いとグルメな獣
千葉 林 元子
田起しの堰を流るる水光りハウスの苗は青あおと待つ
長崎 吉田耕一
老いの目に涙ひと筋流れたり十年過ぎし東北の海
宮城 曽根 務
若葉透き彩る背後の青空と微風の戯れ老いの目癒す
評
元歌の上句「透ける若葉と背後彩る青空に」
浄土俳壇
群馬 木村住子
メモになきふきのとうなど買い足して
評
「メモになき」がいいなあ。ずれる、あるいははみ出すこと、それが日々を楽しくする。
大阪 津川トシノ
あんパンのすきまに春の空気感
評
春の空気が隙間にある頃、あんパンが一番うまい。トシノさん、あんパン同盟を結ぼうか。
奈良 中村宗一
ツバメ来て見守り隊に名乗り出る
評
この積極性に共感。私は目下、道端の草にしゃがみこみ、道端の草観察隊を妻とやっています。
東京 津田 隆
食卓に陽ざしの香る春キャベツ
佐賀 織田尚子
牛糞の暖か我にやんわりと
埼玉 山本 明
言葉遅き孫の差し出す春の土
富山 村井千波
立山連峰どこまでも白と青
神奈川 藤岡一彌
デイケアへ行く妻の背や花の冷え
大阪 大内純子
春宵や玉子一個を分ち合ひ
岩手 佐々木敦子
出控への庭隅に摘む蕗の薹
長崎 平田照子
山の端のふんわり丸く春の夕
秋田 諸澤美佐子
お出迎え玄関先の君子蘭
兵庫 堀毛美代子
あいづちを打ってくれそう黄水仙
島根 出川武範
春雷の鳴りはじめたり境界線
大阪 橘ミヨ子
今日も行く新タマネギに追い肥を
愛知 横井真人
畦道の踏むほかはなきつくしかな
兵庫 小野山多津子
春一番小石乗せ置く回覧板
福岡 古賀幸子
好きだった仏に二つ桜餅
和歌山 福井浄堂
本堂の真上に浮かぶ春の月
東京 山崎洋子
春の宵たまご豆腐のぷるんかな
アメリカ 生地公男
健やかに面々zoomで春彼岸
大阪 岡崎 勲
草餅屋ここが始点の旧街道
評
「旧街道ここが始点の草餅屋」が原句。語順をかえて草餅屋をクローズアップした。