令和3年5月

投稿日時

浄土歌壇
堀部知子 選
投歌総数136首

東京 代田ユキ

紅梅の花に溜まりし白露を目白の二羽が時折揺らす

上句の繊細な把握、下句もまた二羽の目白の動きを見逃さない。しかし「白露」は秋の季語であるが。

埼玉 塚﨑孝蔵

コロナ禍で四人目を生むわが娘妻の還暦の三分前に

元歌の四句目は「バアの還暦」であったが、「妻」とした。数字がなかなか効果的に納まっている。

三重 瀧原信善

看護師に呼ばれし翁ゆるゆると杖つき向かう診察室へ

何気ない歌でありながら、病院の中の翁の動きが目の前に立ちあらわれるように想像できる。

埼玉 岸 治巳

煎餅を己の歯で噛み響く音傘寿になれども有難きかな

大阪 津村仁美

酒のかす焙り砂糖を乗せし母二人で楽しみしほの甘き春

福岡 古賀悦子

うっすらと春の雪積む筋向いの屋根に日の射したちまちに消ゆ

大分 小林 繁

間引きせし冬菜を妻はお浸しに今宵の酒はひときわ美味し

島根 出川武範

時を待ち晴れて今日吹く朝の風少し遅れて絵手紙届く

山口 小田村悠紀子

紺色の母の形見のベレー帽鏡に言われる「似合わないよ」と

宮崎 小野加子

無人の家の荒れたる庭に白梅の今年も忘れず咲き誇りいる

京都 佐野次郎

葡萄の木の枝より流れ光る水重力超える命の力

神奈川 相田和子

庭先にみかんの輪切りを挿して待つヒヨドリ目白名の知らぬ鳥

東京 蚫谷定幸

父母の年回忌にも帰郷できず先祖の御霊へ回向を贈る

大阪 林 孝夫

孫が来て消しピン大会始まった何度やっても一度も勝てず

愛知 横井真人

そっと開け笑みこぼれける孫二人に進級祝いをあげる喜び

元歌の下句「上げるも喜び進級祝」であった。

浄土俳壇
坪内稔典 選
投句総数202句

静岡 伊藤俊雄

梅の香を胸一杯にワクチン来

「ワクチンク」と読む。やって来るワクチンへの期待も胸にいっぱいだ。

和歌山 福井浄堂

念仏のネット配信島の春

コロナのもたらした念仏の新しい風景。コロナは色々ともたらし、それにも目を向けたい。

大阪 安藤知明

故郷(ふるさと)の桜は八分オンライン

これもまたコロナがもたらした新しい風景だ。オンラインは今や日常語になっている。

鳥取 徳永耕一

手招きをすれば来さうな春の山

兵庫 小野山多津子

君待つ日正座横座に鍋座きじり

山梨 山下ひろ子

あたたかや子の合格に草餅を

滋賀 山本祥三

癌よりもコロナ恐れて春炬燵

福岡 谷口範子

猫柳仏花にともす野のひかり

大阪 津川トシノ

夕暮れて砂場に藤の吹き溜り

大阪 渡邊勉治郎

山笑ふスイッチバック残る駅

茨城 齊藤 弘

マスクして話し上手と聞き上手

埼玉 三好あきを

春飴は春日井カバヤ赴任の地

京都 根来美知代

僧坊の棚に木彫りの内裏雛

長崎 村田一子

凍返る廃線跡の駅舎錆び

佐賀 織田尚子

今我を干しているのだ日向ぼこ

滋賀 野口直子

楽譜の中の君と逢う春の湖

長崎 松瀬マツ子

花談義苗を手渡す友笑顔

埼玉 須原慎子

送別の膳に添え置く桜餅

岩手 佐々木敦子

ファックスで来るお誘ひの雛まつり

青森 中田瑞穂

津波碑のうしろ麦踏む女たち

東京 山崎洋子

楤芽摘む縄文の山青き山

京都 佐野次郎

外は雪内は重曹夏みかん

大阪 林 孝夫

春菊を庭から取って朝食べる

石川 松平紀代子

春の川水質検査受けてをり

大阪 大内由紀夫

城の春ぬつと跳び出す黒き猫

静岡 太田輝彦

寿司握る妻の鼻歌桃節句

神奈川 上田彩子

水温む単身赴任もつつがなく

山口 沖村去水

子は走る吾は歩き出す春うらら

愛媛 千葉城圓

海光を体一杯梅開く

「海光や」をやめ「一杯」の後に切れを移した。