令和3年11月

投稿日時

浄土歌壇
堀部知子 選
投歌総数157首

青森 中田瑞穂

写真館何時の間にか店じまい撮りますよチーズの声の懐かし

この一首の良いところは下句でしょう。声が聞こえてくるような臨場感と雰囲気までも伝わる。

兵庫 中西一朗

地蔵会も子らの賑わい遠ざかりひぐらしの声のしきり聞こゆる

作者のさみしさを、ひぐらしの声が掻き消すように鳴く、ひとしお身に沁みるその鳴き声が……。

兵庫 堀毛美代子

「ただいま」と同時にマスクをはずしたり傘寿のわれは「はあ」と息つく

この一首に共感される人も多いかと思う。コロナで騒がれている時期には。下句の実感が良い。

福岡 上野 明

長雨の合間に陽が差し時草を取りて畑に石灰を撒く

奈良 畷 崇子

どうしようと迷いし時に鍬を持ち思いっきり振り上げ耕作をする

滋賀 北川徳子

濃紫のセロファン纏いし花束とクラッカー舞ふ古稀の祝ひに

石川 五十嵐一雄

はらからの長となりたるわれなりき背筋を伸ばし生きてゆかむか

愛知 吉田喜良

あっけらかんと烏してをり椋島に庭の枇杷の実先取りされて

愛知 横井真人

一面の稲の花咲く畦道の垂れ初めし穂を手に取りて見る

滋賀 中村ちゑ

花房の日毎に紅の彩深む百日紅空に枝をひろげる

岡山 矢川忠彦

甦るは岡山空襲真っ赤な空われは小学一年生

宮城 西川一近

鮮やかに猛暑に咲きたる百日紅その紅色が根元に散り敷く

大阪 谷澤達子

コロナ禍に病知らせる甥の声見舞かなわず別れを悔む

元歌の四句目「都会の空は」を「空に」、五句目「星無く」を「星の無く」と助詞の「の」を入れた。一首出来上った時声に出してよむことも大切。

浄土俳壇
坪内稔典 選
投句総数208句

京都 根来美知代

秋澄むやトイプードルの色違い

〈575の言葉の絵〉という一面が俳句にはあります。この句、快い絵になっています。

青森 中田瑞穂

マネキンに肥満など無し秋暑し

汗もかかないですね、マネキンは。句の主人公は肥えていそう。ちょっとおかしい。

東京 山崎洋子

新涼の歩幅を少し大きめに

賛成です。私も大きめにして歩いています。

岩手 菊池 伉

じゃが芋を掘りて日影に広げおく

栃木 茨木あや子

ふるさとの空とんではね鮎遊ぶ

佐賀 織田尚子

鮗の光るうろこをはぐ八十路

滋賀 三宅俊子

グミ菓子好き虫採り大好き図鑑繰る

富山 山澤美栄子

夏草や確かここにも在りし家

鳥取 徳永耕一

直線を紡ぎつむぎて蜘蛛の囲に

和歌山 福井浄堂

いつまでも友と語りて盆の月

愛媛 千葉城圓

秋の航白き波残る一直線

福岡 谷口範子

子に孫に家系繙く盂蘭盆会

大阪 津川トシノ

隧道を出るや紅葉のシンフォニー

栃木 伊藤和子

野路の秋歩幅大きく伸ばしけり

滋賀 山本祥三

肩車月を良く見て帰ろうよ

石川 五十嵐一雄

図書室に薄暑の黙が並びだす

群馬 本多義平

過疎守る駐在さんの赤マスク

神奈川 藤岡一彌

盛り上る芋煮座敷の隠し芸

埼玉 須原慎子

友来たり新米五合半分こ

山口 沖村去水

手を止めし傍に草の花ポツリ

神奈川 上田彩子

盆踊り単身赴任の夜は更けて

長崎 吉田耕一

秋深し忘れ上手を笑われる

京都 北村峰月

買い替へて新車爽やか猫車

秋田 高橋さや薫

草むらに露草の青集まりて

長崎 太田ミヤ子

お湯割りの杯は大ぶり秋灯下

言いたいことをイメージ(風景)やリズムに変える。これが俳句作りの醍醐味です。原句は「~をひとり楽しむ」でした。