令和3年12月

投稿日時

浄土歌壇
堀部知子 選
投歌総数124首

栃木 小峰新平

コンバイン停めてスマホのメール見る若者はまた稲を刈りゆく

いかにも今時の若者、スマホは作業中にも離せない。作者はそれを見逃さず一首に収め得た。

宮崎 髙平確子

去年の秋ともに埋めし柿の種芽は出てないかと孫が訊きくる

さりげなく詠われていながら、お孫さんの声や表情までも伝わってくるような一首でほほえましい。

奈良 中村宗一

医師達の昼夜厭わず手当てする終息時期の先が見えない

これも今どきの一首。コロナの終息がおぼつかないだけに、医師への心づかいを詠まれた。

大分 小林 繁

新緑を車窓に赤きディーゼルカー植田に影を映して走る

三重 服部浩子

秋彼岸六地蔵さまは新しきマスクにかえられ下校の子らを待つ

大阪 津川トシノ

朝刊の中より風呂で読む記事を取り置くことが習わしとなる

千葉 木村哲也

檀徒らの草刈終えし寺の土手待ちかねし如彼岸花咲く

大阪 橘ミヨ子

過ぎし日のアルバムを見て懐かしむその娘も今は二児の母なり

埼玉 塚崎孝蔵

パソコンに嫌われている高齢者クリックの音一人前に

神奈川 相田和子

夫の介護挫けてならぬと仰ぐ空きらめき渡る星を仰ぎつ

埼玉 岸 治已

目に耳に鼻にも秋がやって来る花の香虫の音富士の冠雪

滋賀 森嶋直子

家族葬多きコロナ禍に舅の長き列なす野辺送り遥か

愛知 ?田喜良

一日のおおかた眠る猫のジロー名前を呼べば生返事せり

長崎 片岡忠彦

張りつめる本堂に座り写経する最後の一文字終えて和らぐ

千葉 林 元子

秋風や新米積みたる軽トラは二台連なり光りつつ追ぐ

元歌の結句は「光りて走る」であった。

浄土俳壇
坪内稔典 選
投句総数226句

滋賀 三宅俊子

敬老日フォークナイフのホテル風

敬老の日が楽しそう。装いもちょっとしゃれているのかなあ。いい感じです。

富山 山澤美栄子

金木犀一年分の深呼吸

金木犀の香りを思いっきり吸ったのですね。「一年分」がとってもいいです。胸が広くなったでしょう。

佐賀 織田尚子

新胡麻の元気プチプチ跳ねて鍋

リズムが跳ねています。鍋で煎られるゴマのように。いい香りがしてきます。

青森 井戸房枝

道問はれ吾も旅人鰯雲

福岡 古賀幸子

踏み込みてバッタの世界驚かす

鳥取 徳永耕一

己が影拾ひて翔ちし秋の蝶

和歌山 福井浄堂

秋の燈や長屋続きし塗師の町

群馬 木村住子

新米と言ひて炊きたて供へけり

大阪 渡邊勉治郎

赤い羽根新閣僚の襟飾る

長崎 平田照子

水澄むや人影に鯉浮かびくる

大阪 津川トシノ

筆筒のハサミ光るや窓の月

静岡 原田和子

柿日和民生委員に訪ねらる

兵庫 堀毛美代子

蔓引けば空蹴り上げる烏瓜

青森 中田瑞穂

たっぷりと名水を汲み十三夜

山口 沖村去水

秋の虫二秒休んで又リリリ

大阪 大内由紀夫

秋晴や卵むしょうに食べたうて

神奈川 上田彩子

梨を剥く自分一人のために剥く

秋田 高橋さや薫

姿勢良く太鼓の少年秋祭り

奈良 笠井文夫

秋空や御寺の甍雲を背に

長崎 吉田耕一

子供らに送る予定の大根蒔く

山梨 山下ひろ子

モーツァルト浸み込ませ子に干柿を

京都 北村峰月

私を脱ぎ月光を纏ひけり

東京 山崎洋子

そして秋音楽班のコントラバス

群馬 飯塚 勝

百日紅今朝は青空広がって

「青空ようやく見せにけり」だった。言葉の絵として鮮明になるように直しました。