令和4年1月

投稿日時

浄土歌壇
堀部知子 選
投歌総数134首

宮城 西川一近

腰すえて老母は戦後の体験を「おのが修業」と切々と語る

作者は僧侶で、戦後の体験を語る母上の様子が、ありありと見えてくるようにこの一首から伝わる。

埼玉 岸 治已

野菜にも姉妹のような名がありて小松菜、水菜、白菜、サラダ菜

野菜への並々ならぬ愛情を感じさせ、その野菜を並列することでより一層の効果をもたらしている。

兵庫 堀毛美代子

バームクーヘン持ち帰る娘の笑みの顔二十歳の息子の親とも見えず

娘さんの気持、よ~く解ります。その息子さんであれば尚更のこと。年令は関係ないのです。

埼玉 山本 明

柿の実の地上に落ちて熟しきる人に知られず愛されぬまま

兵庫 吉積綾子

生甲斐の短歌作りは楽しくて指折りながら生きよ百まで

岡山 小川信男

霜月に入り日の出の遅くなりジョギングの腕章青あお光る

奈良 畷 崇子

コロナ禍にマスクに慣れしと思ひつつ五分もすれば老いの息切れ

栃木 小峰新平

微笑みてガイド務める若者はウズベキスタンの歴史を語る

福岡 古賀悦子

畦道の嫁菜の花に立ち止まり「野菊の墓」の民さん偲ぶ

福岡 堺 和彦

わが誕生日祝ふが如くさ庭なる藤袴の上を舞ふアサギマダラ

大阪 津川トシノ

日脚伸びちょっと眩しい招き猫コロナ禍の中覚悟新たに

宮崎 小野加子

地鎮祭晴れたる空に感謝して我の生家は新築を待つ

青森 中田瑞穂

金属音響きて岩を砕くよう工事の如し奥歯の治療

滋賀 三宅俊子

リモコンのシャッターに替え軽き音膝腰痛の負担もかるく

元歌は「シャッターをリモコンに替え軽き音膝腰痛の負担かるくす」であった。少し説明的になるので、変えてみたがご参考までに。

浄土俳壇
坪内稔典 選
投句総数242句

滋賀 山本祥三

意見違うけれど我等は冬日和

我等はいっしょに冬日和の中にいる、というのだろう。いいなあ、意見の違うこの人たちのさまは。

大阪 津川トシノ

春を待つ球根セットという宝

私も球根セットを買いたい気分だ。新しい年を生き抜く心の支えにもなりそう。

青森 中田瑞穂

初雪や見知らぬ人と会釈して

この句の気分もいいなあ。令和四年がどんな年になるのか、予測はできないが、山本さん、津川さん、中田さんの句を心に置いて暮らしたい。

佐賀 織田尚子

人参で再軍備して夫を打つ

鳥取 徳永耕一

秋晴や腹の底からカンツオーネ

岩手 菊池 伉

曲り家の柿色づくや夕日影

東京 池田眞朗

パソコンに語る授業や年暮るる

福岡 谷口範子

ずうずう弁親しく真似てりんご食ぶ

長崎 平田照子

みかん山友へのみやげ十八個

東京 西谷富士子

秋風や河原に残るかまど石

愛媛 千葉城圓

十三夜今年は俺の誕生日

長崎 松瀬マツ子

送り物野菊をつんで隅に入れ

愛知 瀧本憲宏

ボール蹴る冬の硬さのありにけり

岩手 佐々木敦子

シルバーはお子さまランチハロウイン

福岡 古賀幸子

案山子故立って居らねばならぬかに

群馬 長田靖代

供へたる今日のみかんは愛媛産

群馬 深澤智榮

秋晴や逢えばにっこり遠会釈

埼玉 須原慎子

ふるさとの方言ひょっこりつるし柿

茨城 齊藤弘

コロナ禍や名前浮かばぬマスク顔

大阪 岡崎 勲

深酒の親父は会ったと雪女郎

山口 沖村去水

タンポポがこっそり見てる猫の鼻

神奈川 上田彩子

住職の妻が鐘つく由布の秋

東京 山崎洋子

煮凝りのありと居酒屋をんな文字

原句は「煮凝りありと居酒屋の」だった。