令和4年2月
浄土歌壇
埼玉 岸 治巳
百薬の長と言いつつ飲む酒に食後は錠剤飲み分けており
評
まさにお酒は「百薬の長」、漢書に酒をほめている。言い訳などは無用、下句との取り合わせが妙。
宮城 西川一近
本堂の扉開ければ鈍色の東雲の上に朝日輝く
評
夜明けの薄明りに朝日の昇るさまは、上句があってこその輝き。僧侶である作者ならではの把握。
長崎 片岡忠彦
水餅や孫はチンして直ぐ食べる爺は網焼きこんがり焦がし
評
水餅を介して、世代の違いを一首に納め得た。やっぱり焼き目がついている方がいいですよね……。
群馬 篠原勝雄
コロナ禍で二年続き祭のなく実りの秋は過ぎてゆくなり
京都 木瀬隆子
遠山に浮雲の影くろぐろと流れて今日も静かに暮れる
愛知 横井真人
昏睡の妻から洩れたる細き声待てども待てども後は続かず
青森 中田瑞穂
うたを詠むあなたにしたたむ一通にモネの睡蓮の切手を貼れり
大阪 林 孝夫
買い物に施設の母を連れていく母の笑顔を久びさに見る
青森 井戸房枝
五十年住みしわが家の跡形もなく野の花咲きて秋の夕暮
京都 根来美知代
気後れの衝動買いの雨コートクローゼットを出てまた入る
滋賀 三宅俊子
瀬田の橋擬宝珠付きたる水位計首長くして雨を待ち居り
滋賀 北川徳子
雨脚は水面にぷつぷつ水輪たてやむなく見送る湯めぐりのバス
奈良 畷 崇子
一面に落ち葉敷きつむ散歩道踏まないでよと聞こゆるようにも
大分 小林 繁
ネガティブもポディティブもまた人生プラス思考の人生行脚
福岡 上野 明
妻子連れ行く長崎の漁師食堂海鮮定食に満腹になる
評
元歌の上句は「長崎の漁師食堂へ妻と子で」。
浄土俳壇
岩手 菊池 伉
六角牛山雲なく晴れて大根引く
評
遠景と近景が鮮やかです。俳句はしばしば五七五の言葉の絵です。この句はまさに絵です。
大阪 小濵幸子
二人して百七十九歳年暮れる
評
ちょっとしたことに詩をみつける。それが俳句の特色です。この句はその端的な例です。
青森 中田瑞穂
冬波が冬波を追う大間崎
評
本州最北端の岬が大間崎。先年、俳句仲間と行きました。中田さんはこのところ腕があがりました。「極月や遠野絵地図に夜泣き石」も秀作です。
和歌山 福井浄堂
初霜や胸毛を濡らし駆ける犬
大阪 西岡正春
アフガンの迦陵頻伽と鱗雲
青森 井戸房枝
寺行事まず朱で囲む初暦
茨城 齊藤 弘
筑波嶺や冬の朝晴れ心晴れ
埼玉 山本 明
小春日や袖の半欠け貝釦
奈良 畷 崇子
溢れたる両の手で鍋おでんかな
大分 吉田伸子
秋色のサッカー場の朝広し
長崎 松瀬マツ子
寺や墓お花を替えてもう師走
和歌山 山田美和
天高く真昼の月のひとりごと
長崎 平田照子
捨てがたき童画の載りし古暦
長崎 片岡忠彦
仕事終え熱燗一杯夕げ前
東京 椎野恵子
傘寿過ぎの臍の緒あり冬銀河
福岡 日高加代子
文庫本の文字は小さし冬籠
埼玉 須原慎子
大根のかくし包丁十文字
群馬 深澤智榮
園児らのバケツの稲も収穫期
大阪 津川トシノ
下り九九孫と唱和の日向ぼこ
佐賀 織田尚子
大根をピーラーで長くリボン状
大阪 森 敏記
久々のベビーカステラ文化祭
京都 孝橋正子
煤払せし背に光る埃かな
福岡 古賀幸子
五七五もて七五三寿ぎぬ
長崎 吉田耕一
妻がまた同じこと言う時雨時
大阪 光平朝乃
ブロンズの小便小僧冬帽子
大阪 岡崎 勲
コロナ禍や巫女もマスクの初神楽
山梨 山下ひろ子
万両の実のつやつやと蔵の前
評
「豊かなり」を「つやつやと」にしました。「豊かなり」は言い過ぎ。言いたい事や思いを具体的な風景に転じること、それが作句のこつです。