令和5年1月
浄土歌壇
宮城 西川一近
秋日差す門前通りを学友と芋煮、栗飯茶屋にて食す
評
なにげない一首でありながら、学友とのひとときを大切に思い、詠み終えた後に自ずと目にうかぶように想像できる一首。作者の生業は僧侶。
兵庫 足立宏美
戦時下に幼き我をおんぶして逃げまわりし姉今旅立ちぬ
評
亡き姉上との思い出は戦時下に遡り、感謝の思いとなつかしさは尽きない。追慕の念はこの先も消えないことでしょう。又、良きお作を…。
東京 代田ユキ
鶴首の備前の壺に活けてみむ道端に咲く赤まんま二、三本
評
なにげない一首でありながら、鶴首の壺と赤まんまの取合せが妙。「二、三本」の数詞も生きていて部屋のただずまいまでも自ずと見えてくるようだ。
愛知 吉田喜良
庭の柿亡き妻からのプレゼント鳥の分までいっぱいなったよ
青森 村木義一
願かけし薬師版画の五千体刷りおえたれば判ひとつ押す
佐賀 早田なつ代
菩提寺に線香の香り深みゆき亡き住職の言葉噛み締む
兵庫 堀毛美代子
軽トラに取れ立ての枝豆籠につめ友は来れりグランドゴルフに
神奈川 相田和子
入院の友の短歌の切なかりわが病みし日の甦る秋
兵庫 斎藤一義
病院の帰路蒼天にさそわれて整骨院へも足運びゆく
大分 吉田伸子
同年の友のソプラノ熱唱にてわれの背筋のピンと伸びたり
岡山 小川信男
秋祭嫁ぎし娘の里帰り三年ぶりの食卓楽し
兵庫 吉積綾子
九十五年生き来しわれの平穏に感謝す喧嘩の記憶もなくて
大分 小林 繁
文字となり人の目に触れ読まれゆく投稿短歌に満たさるる思い
評
元歌の結句は「心潤す」であったが、このように直した。
浄土俳壇
佐賀 織田尚子
自己主張密やかなれど冬瓜です
評
わが家ではつい先ごろまで居間に冬瓜がころがっていた。サインペンでカバの顏を描いたトウガンカバ。いい相棒だった。
兵庫 吉積綾子
白ワイン焼松茸に生姜かけ
評
焼松茸には生姜汁が合うのだろうか。この句のような贅沢、してみたい。作者は九五歳。
東京 山崎洋子
茸狩り博士は隣の小学生
評
楽しそう。得意な顔の小学生が目に浮かぶ。
大阪 津川トシノ
みの虫の家は自前で風に揺れ
愛媛 千葉城圓
秋の島向こう向うの島も見ゆ
岩手 菊池 伉
六角牛山の風になびきて吾亦紅
三重 山岸美智子
八つ当たりどくだみぐいっとぬいてみる
京都 孝橋正子
採りくれし夫へ山盛り零余子飯
京都 木瀬隆子
栗焼きぬ長き昭和を語る友
福岡 日高加代子
出棺の空に虹あり遠き嶺
福岡 谷口範子
通し土間仄と蔵より新酒の香
和歌山 福井浄堂
秋晴や高野街道数珠繋ぎ
滋賀 山本祥三
冬うらら四阿に菓子を持ち寄りて
長崎 平田照子
カピタンの渡りし出島つわの花
神奈川 藤岡一彌
稲架見えてふるさとのふところに入る
群馬 長田靖代
写経して留守居がうれし菊日和
滋賀 小早川悦子
ふんばって孫抜く大根ずっしりと
青森 中田瑞穂
海峡に釣り船散らし今日の冬
京都 北村峰月
いんげんのきしきしがすきごまよごし
奈良 中村宗一
好きだった父に供えるむかご飯
秋田 保泉良隆
昔日の三角ベース秋澄みて
神奈川 上田彩子
小鳥来る有閑マダムのティータイム
秋田 高橋さや薫
学芸会近し母校の秋うらら
埼玉 塚﨑孝蔵
新米が親から届く二十キロ
評
原句の「うれしさよ」を「二十キロ」にした。こうするとうれしさが具体的になる。