令和4年12月
浄土歌壇
愛知 吉田喜良
萩の花取りつき虫に姿変え嫌われながら人に取りつく
評
発想の面白さもさることながら、萩の花の見方が 変ってしまう。この花には申し訳ないが…。
群馬 新井日出子
寒くない寒くないかと夜明け前鴉一羽に野鳥も啼けり
評
夜明け前のひととき、上句のように作者には聞こ えたのでしょうか。鳥たちへの親交の思いも潜む。
長崎 片岡忠彦
重き荷を両手に持ちて訪れる母の思いは土産にこもる
評
ご高齢の母上でしょうか。その結句の土産とは何 だったのでしょう。読者が想像力を働かせる一首。
福岡 上野 明
早朝に住宅街を散歩する塀に絡まる朝顔あまた
山口 沖村宏明
水平社の博物館で研修す百年前と同じ雨降る
愛知 横井真人
妻逝きて話し相手のいない日々孫子の電話の長くなりたり
福岡 古賀悦子
立ち上がり一歩踏み出すその不安常に抱えて老いゆくあはれ
栃木 小峰新平
刈り取りの前の稲田の上を飛び捕虫に励むツバメの親子
東京 田中恭子
しろがねの尾花が原を分けゆけば秋茜舞ふ田圃はこがね
滋賀 中村ちゑ
戦中を生き来し亡夫の証なり海兵隊の帽子が一つ
群馬 伊藤伊勢雄
朝の五時小雨降るなか茗荷採る世渡り下手も一生懸命
京都 根来美知代
不具合の膝なだめつつ来春のための球根丁寧に植う
東京 蚫谷定幸
セルフレジシルバー世代は孫に聞きようやく操作終わって帰る
岡山 谷川香代子
秋彼岸遺影にむかい語りたり新しき写経に笑みの面持ち
評
元歌は、「新しき漢字の写経秋彼岸に遺影と話す笑顔で頷く」であった。少しリズムをつけて、短詩型であることを意識し、説明しないこと。
浄土俳壇
大阪 西岡正春
ヒバゴンと小鳥静かに来て居りぬ
評
ヒバゴンまでも来ている!いいなあ。西岡さん といっしょにネンテンも遊びたい。
鳥取 徳永耕一
梨ひとつ妻亡く否応なく独り
評
リズムが潔い。一つの梨に凛とした意志を感じる。
山梨 山下ひろ子
空澄みてきょう会う友に酢橘もぐ
評
澄んだ空と酢橘の香りがすてきな友を想像させる。 酢橘をたとえば「デコポンを」とすると、友のイメージががらりと変わる。
山口 沖村去水
峠までまっすぐ伸びる秋の道
神奈川 中村道子
秋日和庭先で切る妻の髪
長崎 吉田耕一
立冬や暦に印手術の日
青森 中田瑞穂
冬来たる先ずは珈琲でも飲むか
愛知 矢田一子
月代や君の靴音今も待ち
愛知 吉田喜良
稲倒し風真っすぐに通りたり
岩手 菊池 伉
縁側のむしろに広げ唐辛子
群馬 本多義平
故郷や観音堂の百日紅
埼玉 三好あきを
やぶ蘭にほうと老躯を伸ばしけり
岩手 佐々木敦子
天高し雲梯の子の泳ぐ足
三重 森 陽子
彼岸花日も場も判に押したやう
兵庫 吉積綾子
どの家も仏間が見える秋日和
青森 井戸房枝
山寺の裏まで燃やす彼岸花
長崎 松瀬マツ子
いそいそと新芋洗い土落とす
愛媛 千葉城圓
今日からは日向選びて散歩した
長崎 平田照子
ご神体ずぶずぶ海へ秋祭
滋賀 大林 等
しぶ柿を枝ごと飾りおもてなし
兵庫 堀毛美代子
小流れに沿うて歩めば野菊かな
埼玉 須原慎子
赤のまま指切りげんまんまた明日
大阪 西森呑子
蕎麦よりも温め酒待つ秋の午後
群馬 木村住子
鋏入れぶどうの重さ手に移る
評
「剪」の字を「鋏」に替えた。「剪」もハサミ と読めないことはないが、孫とか曾孫は読めない。 孫や曾孫も楽しんでくれる句を作りたい。