令和5年3月
浄土歌壇
兵庫 中西一朗
本堂は拭き清められ蔀より蜂密色の御仏の顔
評
下句の蜂蜜色の仏さまとしたところに注目した。その色に作者に見えたところから想像がひろがる。
宮城 西川一近
九十四歳の母とラインで正月の挨拶交わし元気をもらう
評
とてもすばらしい。ご高齢の母上とラインで新年のご挨拶を交わせるなんて!読者も元気をもらう。
滋賀 前川千壽代
いくたびの作業の後を艶の良き住職の炊きし飯をいただく
評
住職ご自身が炊かれたその飯は格別でしょう。それも作業の後のお礼も兼ねてのことですから…。
兵庫 堀毛美代子
神々に睦月朔日餅を供え寿ぐ朝の心穏やか
奈良 中村宗一
供出に出されしままの鐘のない田舎の寺は寂しいかぎり
山口 沖村宏明
甲虫の如き陸自のトラックが列なし走る雨の高速道路
長崎 吉田耕一
年金で生活なんかできません自給自足で汗水流す
滋賀 大林 等
窓越しに鳥が啄む実の南天凍て付く庭に春呼ぶ兆し
東京 蚫谷定幸
着膨れの嫗、翁のグループは冬の雀の群れによく似る
滋賀 中村ちゑ
生かされて白寿を迎え短日のひと日ひと日を大切にせん
アメリカ 生地公男
サンタナ風夜陰に荒れて青芝にアボカド落とし黒ぐろとなす
愛知 吉田喜良
年寄れば涙もろくもなりますね繰り返し読む「二十四の瞳」
埼玉 山本 明
寂しさを投げ捨つる術知らざれば今日のひと日を如何に過ごさむ
奈良 畷 崇子
ドドッドドド屋根の雪落つる正月二日兎のように一歩跳ねピョンと
岡山 谷川香代子
夜中でも何かあったら電話して掛りつけ医の配慮に救わる
評
元歌の結句は「やさしさに救わる」であった。
浄土俳壇
大阪 津川トシノ
亀甲文母の形見のちゃんちゃんこ
評
ちゃんちゃんこが目に見える。俳句が「575の言葉の絵」になっている。言葉の絵を意識して句を詠みたい。
群馬 長田靖代
仏間開け初雪告げて共に見し
評
やや暗い仏間と外の初雪の白が対照的だ。つまり、この句も「575の言葉の絵」が鮮明だ。
青森 中田瑞穂
ここいらは造船所跡春隣
評
船が木造だった時代、あちこちの海沿いに造船所があった。この句、錆びた錨などが転がっていて造船所の跡地だと分かるのだろう。やがてその跡地に草が芽を吹く。もちろん、この句も「575の言葉の絵」になっている。
兵庫 吉積綾子
初風呂や三児育てし乳房うく
岩手 佐々木敦子
玄関に曾孫ら迎ふ雪うさぎ
長野 出澤悦子
干大根レシピと共に孫の荷へ
和歌山 福井浄堂
老どちのシネマに集ふ年の暮
滋賀 野口直子
正面さけ隣に座して粕汁も
福岡 谷口範子
女子会の上機嫌なる玉子酒
岩手 菊池 伉
読みさしの季寄せふせおく春炬燵
大分 吉田伸子
和尚さん経の途中の咳ひとつ
東京 樋口七郎
アロエ咲く熱海の町の坂道に
埼玉 山本 明
蕪村忌や師は持たざれど俳句好き
東京 蚫谷定幸
昨日見た婆ちゃんみたい寒雀
山梨 山下ひろ子
葉牡丹のプランター並ぶ通学路
大阪 光平朝乃
海沿いを駆け抜く電車去年今年
愛媛 千葉城圓
元日は定期船終日休みなり
京都 孝橋正子
お火焚きの御饅に玉の焼印
奈良 中村宗一
干し柿の余りをジャムに羊羹に
愛知 鈴木吉保
懐手会釈で通る仁王像
兵庫 堀毛美代子
素陶乾く日ざし二月の雪景色
評
「やわらか」を「二月の」にした。作者の思いや感じを直接的に表現しないことが大事。二月の雪景色は春のやわらかさを帯びている。