東京都品川区・戒法寺檀信徒

２０２０年８月、１２年間の休業を経て復活した東京・浅草の老舗「伊奈利寿司 福寿家」。連日大盛況と聞き、初夏の陽気に誘われて訪れた。
「定番は『伊奈利寿司』。６種類の野菜を巻いた『伊奈利ロール』も人気です」と、案内してくれたのは、店主の新保和子さん。この店の四代目だ。
伊奈利寿司は裏返したお揚げが特徴。「裏を返す」にちなみ「リピートしてほしい」という、祖母から受け継ぐ思いが込められているという。
中でも注目は炙りいなり。油揚げの裏側を炙ることで、力強い大豆の風味が際立っている。酢飯に混ざった紅ショウガとレンコン、２種類の酢飯もうれしい！
伊奈利ロールは、まるでオシャレなサラダのよう。薄めのお揚げ、ごまだれの風味、酢飯の味が口の中で絶妙にマッチして、軽やかに完食できる。どちらも、一箱でこの充実感は手間をかけている証だ。
「私自身が欲張りなんです。おまけに、母に似て頑固になってきて」と笑いつつ、店への思いを話してくれた。
「当初店を継がなかったことが後悔となってきて、父が名付けた『伊奈利寿司』の店をつなぎたいという思いが強まってきたのです。子どもたちの後押しもあり、復活を決めたのですが、代々継ぎ足してきたお揚げの煮汁はすでになく……。記憶を頼りに試行錯誤した結果、口からノドに残る風味は記憶のまま、あっさりと食べやすい煮汁ができました」
いなり寿司の要となる油揚げは、知人のつながりで出会った新潟と埼玉の豆腐店から特別に取り寄せたもの。「どちらも大豆の風味がよく、個性を生かして使い分けています」と、おいしさへのこだわりが溢れ出す。２種類の油揚げのおかげでレパートリーが増え、同じ煮汁でも違う味付けのように仕上がって、お客さんにも好評だ。
すべては和子さんの欲張りと頑固のたまもの。強い思いが新しい味を作っているのだ。
（フードライター：藤岡操）

店舗情報

〒111-0033　東京都台東区花川戸2ｰ18ｰ6
TEL: 03-5828-3787
HP：https://www.fukujuya.net/

■営業時間＝10：00～18：00（なくなり次第終了）
■定休日＝不定休
■銀座線、東武鉄道、都営地下鉄「浅草駅」より徒歩約5分
※価格は税込
※テイクアウト予約、通販はＨＰから受付
※通販は店舗から翌日着で配送可能な地域のみ対応。詳しくはHPでご確認ください