仙台サラリーマンの昼を彩る 熟練の技光る極上とんかつ 美味小家

夏の名残を惜しむような日差しが降り注ぐ晩夏、杜の都・仙台もまだまだ暑い。仙台駅からバスで約15分。オフィスやマンションが立ち並ぶ一角に、行列の絶えない人気店がある。
メイン通りから一本入ったビルに店を構える「とんかつ美味小家」。近隣で働く人々が「今日は少し奮発して行こう」と楽しみに訪れる一軒だ。近年はSNSでも紹介され、遠方からの客も多い。昼どきには、12時を待たずほぼ満席になる。
目当ては、香ばしい衣をまとい、からりと揚がったとんかつ。上質な肉はきめが細かく、噛めばしっとりとした食感の奥から、ほのかな甘みが広がる。ボリュームがありながら、素材の良さと丁寧な仕事を味わいたい大人の舌にも応える。
腕を振るうのは、75歳の店主・後藤昇さん。洋食店で修業を重ね、2001年に青葉区荒巻神明町で独立。しかし、11年の東日本大震災で被災し、現在の場所への移転を余儀なくされた。
「前の店からは1キロくらいしか離れていないんですが、それでも知らない土地で一からの再スタート。当時は必死でね。とにかく店を軌道に乗せようと無我夢中でした。でも荒巻神明町時代のお客様が支えてくれて、なんとかここでも知られるようになったんです」と振り返る。
「銘柄より質が大事」と、肉選びには妥協しない。宮城県産の豚肉を使い、長年付き合う精肉店に「うちではこういう肉じゃないと」と伝えて仕入れる。200度の高温でさっと揚げ、余熱でじっくりと火を入れる。合わせるのは、オリジナルのピリ辛トマトソース。ほどよい酸味と辛みが肉の甘みを引き立て、脂身は舌の上でふわりととろける。
近年の物価高の影響をうけるが、それでも「サラリーマンの皆さんが気軽に食べられる値段にしたい。腰を痛めているけど、あと5年は頑張りたいね」と後藤さん。この味をいつでも楽しめる町の人が羨ましい、と思いながら店を後にした。
(ライター:岡本茉衣)

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