浄土宗新聞

亡き人に届ける言葉 「お経」をとなえる

イラスト:きりたにかほり

イラスト:きりたにかほり

お経はお釈迦さまの声

最近では、マンガや映画が大ヒットした『鬼滅の刃』を通じ、浄土宗で大切にする『阿弥陀経』や、「南無阿弥陀仏」のお念仏を目にする機会が増えました。一方、法要で聞くこの「お経」とは一体何だろう、と疑問に感じたことがある方もいらっしゃるはずです。
実は、お経とは仏教を開いたお釈迦さまの説いた、苦しみや悩みから脱するための教えを意味します。僧侶はみなさんの前でお釈迦さまの教えを音読しているのです。それは、お釈迦さまの声の再現といえます。
日本で読まれるお経の多くは漢文で書かれたものですが、お釈迦さまが漢文で教えを残したのではありません。インド生まれのお釈迦さまはインドの言葉(サンスクリット)で話し、その声はインドの文字で表されました。
それが中国に伝わって翻訳され、漢文のお経が成立します。日本にもこの漢文のお経が約1500年前に伝わりました。それ以来、日本の仏教徒は、漢文に翻訳されたお経に感銘を受け、理解を深めていったのです。
現在は、インドの言葉や漢文から現代語に訳されたお経も出版されており、耳で聞いただけではわからないその意味を、しっかりと学ぶことができます。
そういったものを読むと、お釈迦さまが示した、悩みや苦しみを減らし、幸せに生きるヒントを得ることができ、「いいこと言ってる!」と感じる瞬間が訪れるはずです。

浄土宗のお経

浄土宗でもお釈迦さまの言葉を声に出して読み上げます。特に大切にするのは「南無阿弥陀仏」のお念仏をとなえること。そのため、お経全体がお念仏を中心に構成されています。その中で浄土宗を開いた法然上人が書かれた、お念仏についての言葉を読むこともあります。
お念仏を中心とする浄土宗のお経は導入部分、主要部分、結論部分の三つにわけることができます。
導入部分では自身の心身を清め、仏教を信仰する人が大切にするべきものを敬い、仏さまをお招きして、自身の行いを省みます。これは主要部分に入るための準備です。
主要部分では、清められた心身で浄土宗が特に大切にするお釈迦さまの言葉と、南無阿弥陀仏のお念仏をとなえます。お経を読むことやお念仏をとなえることには、大きな功徳があり、ここでは、それをご供養する方に振り向け、分かち合う「回向」も行います。
結論部分では、仏教徒として生きることを確認し、お招きした仏さまにお帰りいただき、読経が終了となります。
法事などで大事なことは、お念仏をとなえることと、その功徳を大切な方に手向けて、回向することです。
お念仏は、仏さまとご縁を結びたい、極楽浄土に生まれ変わって大切な人に会いたいという思いでとなえることが肝要です。その功徳は、となえる人の心に植えつけられ、大切な方へ手向けることで、その時々の感情、例えばさみしい思いや感謝の念も一緒に届いていきます。
読経により、あの世とこの世が結びつき、お念仏の功徳を分かち合うことで、大切な方と思いを共有できるのです。

思いを形に

浄土宗のお経は、僧侶だけがとなえるものではなく、どなたがとなえてもよいものです。基本となるお経は「日常勤行式」と呼ばれ、日常でとなえるもの、言い換えると毎日となえるお経です。
お仏壇の前に座り、自分でお経をとなえることは、亡くなった方への供養になります。自分の思いを読経という形にすることで、亡くなった方は、手を合わせるあなたの姿をご覧になり、声を聞き、胸の内をくみ取ってくださいます。ご自宅のお仏壇の前でおとなえしたり、法事などではご住職の声に合わせておとなえしてもよいでしょう。
お経をとなえる時に気をつけるのは、一字一字しっかりと読んでいくこと。お経本を開き、漢字を目で追い、漢字の横の振り仮名を声に出して読んでいきます。
初めからうまく読める人はいません。私たち僧侶も修行の中で練習して覚えていきます。当然、最初はつかえることもあります。みなさんもつかえて大丈夫ですし、読み間違えることもあると思いますが、気にせずに読み進めましょう。声の大きさにも特に定めはありませんが、恥ずかしがらずに読みましょう。
お経を読む中でもっとも心がけたいのは、やはりお念仏をしっかりとなえること。日々の暮らしが忙しく、日常勤行式をとなえる時間がないこともあるかと思います。そんな時でも「南無阿弥陀仏」と十遍となえる「十念」だけは行いましょう。
お念仏をとなえることで、阿弥陀さまは私たちの胸の内を聞いてくださり、亡くなった方に伝えてくれます。その方は、あなたの思いを受け止め、幸せを願ってくれることでしょう。そして、その功徳がいつか結実し、必ず大切な方と再会できる瞬間が訪れるはずです。

浄土宗総合研究所研究員 石田一裕(いしだ いちゆう)
昭和56年北海道生まれ。浄土宗総合研究所研究員。横浜市南区光明寺副住職。
博士(仏教学)。専門はインド仏教。著書に『お坊さんはなぜお経を読む?』(浄土宗)、『現代語訳浄土三部経』(同、共訳)など。

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