連載 仏教説話に説かれる植物 第5回 ニーム

人々に寄り添う 聖なる木
ニームは、その強烈な苦み成分に強力な殺菌・防虫作用があることから、インドでは古来「奇跡の木」「村の薬局」と呼ばれ、人々の暮らしに欠かせない聖なる木とされています。
今回は、『ジャータカ』にあるニームにまつわるお話を紹介します。
苦くなったマンゴー
、バーラーナシーの国に4人の兄弟のバラモンがいました。彼らは出家し、ヒマラヤの山中で草庵を結び修行に励んでいました。 やがて長兄が亡くなり、サッカ(帝釈天)となりました。サッカは残された3人の弟たちに、薪を割り火をおこす「かみそり斧」、敵を退け軍勢を呼ぶ「魔法の太鼓」、そして大洪水をも引き起こす「ヨーグルトの瓶」という3つの宝物を与えました。
そこへ、空を飛ぶ宝石を手に入れた男が現れます。男は宝石を利用して3人の修行者を次々と欺いて殺害し、すべての宝物を奪い取りました。さらに男はこれらを使って当時の王を倒し、自らが王となって国を治めるようになったのです。
ある日のこと、王が川で遊んでいると、黄金色に輝くマンゴーの実が、上流から流れてきました。王がその種を王苑にまき、乳水や蜜水を注いで大切に育てると、3年目には素晴らしい実がなりました。その実はとても甘く、瓶のように大きく丸い立派なものでした。王はこの木を宝として独占し、他国の王たちには芽が出ないよう傷をつけた実を送って牽制していました。
これを知った隣国の王は、一人の腕利きの園丁(庭師)をスパイとして送り込みました。園丁は言葉巧みに王の信頼を勝ち取り、王苑の管理を任されるようになりました。王が自分を信じきっていると知った園丁は、恐ろしい計画を実行します。甘いマンゴーの樹を取り囲むように、とても苦いニームの樹や、薬用植物を植えたのです。
ニームの樹は成長し、地中では根が絡み合い、地上では枝と枝が抱き合うように接触しました。すると、あれほど甘美だったマンゴーの実は、ニームの苦い汁を吸い上げ、葉までもがニームと同じような味に変わってしまったのです。園丁は王苑が荒れ果てたのを見届け、自国へと逃げ帰りました。
異変に気づいた王がマンゴーを食べると、その苦さに驚いて吐き出してしまいました。王が賢者を呼び、「なぜこれほど苦くなったのか」と尋ねると、賢者は詩を唱えて答えました。
ニームに囲まれて、
あなたのマンゴーは、
根は根と交わり、
枝は枝と相抱き、
不善なるものに接触して、
苦くなってしまった
王はその言葉を聞き、すぐにニームの木を切り倒して根を引き抜き、周囲の土を入れ替え、甘い水で手厚く世話し直しました。するとマンゴーは本来の甘さを取り戻しました。
染まりゆく心と「環境」の力
お釈迦さまは、王子として生まれ、さとりを得るまでに、生まれ変わりをくり返していました。
このお話は、お釈迦さまがジェータ林(祇園精舎)にいた時、修行僧たちに「悪人と共にいることの弊害」を説くために語ったもので、賢者はお釈迦さまの前世の姿です。
甘いマンゴーであっても、ニームという苦いものと関わってしまえば、その甘さは損なわれてしまいます。これは私たち人間も同じです。日々接する環境や友が悪ければ、私たちもまた、知らず知らずのうちにそれに染まってしまうのです。