浄土宗新聞

【心のケア】Webカウンセリング1

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コロナ禍でのこころのケアをめぐる「新しい生活様式」

Webカウンセリング1

Q:除け者扱いする人にどう接したらいいか

20人程が入る部屋でミニコミ紙の発送をしていたときです。風邪で体調を崩していたメンバーの男性が、快方に向かったので、マスクをして参加していました。するとリーダーである女性が「感染しないように換気するね」とドアや窓を開け、さらに「2m以上離れるとうつらないんだよね」と言いつつ彼を避ける仕草を見せました。
しばらくして彼は、場の雰囲気にいたたまれなくなり、作業をやりかけたまま中座しました。すると彼女があからさまに不愉快そうな表情をしたのです。私はたまらなくなり「どこにいたって感染の恐れはあるでしょう」と、不快感を口に出してしまいました。そのとき、周りの人は誰も反応せず重い空気が漂いました。私の言動に問題があったのでしょうか。

(Illustration:きりたにかほり)
(Illustration:きりたにかほり)

A:心の違和感を互いに話せる関係づくりを

関係(立場)が人を変える、ということがあります。「まさかあの人があんなことを言うなんて、思いもよらなかった」と気心の知れた仲間でも呆れたり、反対に感心したりすることはありませんか。
例えば、メンバーの一人だった人がリーダーになると言動が厳しくなったりします。学校では子どもたちに物分かりのいい先生が家ではガミガミ母さんになったりします。リーダーや先生、親という立場が人を変えているのです。意外に本人はこの差異に気づかず、悪気もなく我(が)にこだわっています。
我にとらわれると自分との異質さに敏感になり、自分は同類者にはあらずと、人と分かつ行動に出たりしがちです。差別や偏見の芽はこうして本人には見えにくい形で心のなかに宿っていきます。だから巷の特異な噂が想像を取り込んで差別の裾野を限りなく拡げていくこともあるのです。
とりわけ新型コロナの感染予防は先行き不透明なため、人はより一層不安になります。したがって、市民が市民の行動を偏った正義感や、不安感などから監視する〝自粛警察〟という現象すら起きて不安を鎮めようとしています。監視は権力性をもって人の良心の自由を侵します。そして良心への鈍感さが権威への従順さになり、倫理・正義感をひとり善がりに誇張します。この愚かさは、誰もが持ちえるもので、互いに自分の心の奥底の不安な気持ちを話し合い、分かち合うことなくしては気づけないものす。
さて、相談に対する私の考えを述べましょう。マスクの男性をかばった相談者の気持ちは、ともに同じ場を共有する仲間としてその場を大切にしたいから起こったものであり、これからも大事にしたいものです。
しかし、その一方で、置かれた同じ状況に、あなたのように楽観的な人もいれば、リーダー女性のように不安を感じる人、場合によっては予期不安(※)の強い人もいて、人の考え方は様々です。
だから、その差異をもって人の存在まで否定し「あの人が悪い」と批判をしないことです。
他人の考えを自分の考えに従わせるのではなく、まずは、その心の違和感を互いが「私は○○と思いますが…」と、正直につぶやける関係を築くよう努力することから始めてみましょう。
※予期不安=主に不安障害やパニック障害などを持つ人に見られる、何らかの良くない物事が起きること、あるいは自分がその物事をすることなどを想像して、不安感を覚える症状を意味する語。

迷わないための お釈迦さまからのアドバイス

「お釈迦さまからのアドバイス」には、現代にも通じる人生を迷わずに生きていくためのヒントが、示されています。
ここでは「こころのケア紙面カウンセリング」であげた相談例に沿った「お釈迦さまからのアドバイス」からそのヒントとなる視点を提示します。

自分のしたこと、しなかったこと

他人が道理に逆らうのを見るな。

他人がしたことも、しなかったことも見るな。

自分のしたこと、しなかったことこそを見よ。

『ダンマパダ』<法句経>第五〇偈/浄土宗総合研究所試訳

「人は誰でも、他人の過ちには必要以上に敏感になりがちです。そして偏見を持ち相手にレッテルを貼ってしまいます。
一方、自分の過ちは、深く追求せず、自己を正当化しようとします。
「これは「私が私が…」という我にとらわれることから生じます。これを仏教では「我執(がしゅう)」と言います。
お釈迦さまは、人間関係の問題解決のカギは自分自身の中にあると言っています。
人間関係に悩んでいるなら、まずは自分の行為を観察して解決の糸口を見つけることです。そして、心の中の怒りや嫉妬心を縮小させる努力をしましょう。
他人の行為や考え方を変えることは簡単ではありません。まずは、自分自身をよく見て変え、意識して他者の立場から物事を考えて、思いやりのある行動を始めてみましょう。少しずつかもしれませんが、相手のあなたに対する態度も変わっていくことが感じられるはずです。


富田 富士也とみた ふじや

子ども家庭教育フォーラム代表。教育・心理カウンセラー。千葉明徳短大客員教授、千葉大教育学部非常勤講師を兼務しつつ相談活動から若者の「引きこもり」をいちはやく問題提起する。『浄土宗新聞』『THE法然』『知恩』に連載。著書『甘えてもいいんだよ』『だっこ、よしよし、泣いて、いいんだよ』『心理カウンセラーを目指す前に読む本』等多数。

富田 富士也