浄土宗新聞

【お坊さんエッセイ】おだやかに きよらかに

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【お坊さんエッセイ】おだやかに きよらかに

ウイルスと共存して生きていく、新しい生活様式が望まれるようになりました。
生活の場を清める習慣がつくことは、とても良いことと思いますが、ウイルスに敏感になり過ぎて、ストレスになってはいないでしょうか? 自分の身体をいたわり、疲れた心をほっとさせる工夫も必要ですね。洗い過ぎて、かさかさになった手に、アロマの香りのハンドクリームをつけるのも安らぎますね。心を落ち着かせる自然の香りは、ストレスの多い毎日にとても役に立つと思います。

香りは、古来、仏様へのお供えとして重要視されてきました。中国北宋の詩人で、書家としても有名な黄庭堅(こうていけん)が、香の効能を詠った漢詩に「香十徳」があります。黄庭堅は仏教にも傾倒し、修行中に山中で木犀の香りを嗅ぎ、万物が仏法のあらわれであると悟ったと伝えられています。


感格鬼神(かんかくきじん) 感覚が研ぎ澄まされる
清浄心身(しょうじょうしんじん) 身も心も清らかになる
能除汚穢(のうじょおえ) けがれや汚れを除く
能覚睡眠(のうかくすいみん) 眠気を覚ます
静中成友(せいちゅうじょうゆう) 孤独を癒してくれる
塵裡偸間(じんりゆかん) 忙しいときにも心を和ませる

など、香に関する効用が続きます。気に入ったお線香やお香を、仏様にお供えとして焚くことで、お部屋の浄化や癒しにもなりますね。

僧侶が身を清め、邪気を近づけないために、身体に塗るお香をご存知でしょうか?
「塗香」は、白檀、沈香、丁子、桂皮(などを細かく粉末状にしたもので、儀式の前に身にまとうようにつけます。天然の香料の清らかな香りが心を鎮め、内面に作用するはたらきがあります。私は、儀式だけではもったいないと思い、日常にも用いています。ほんの少し手のひらに取り、身体に擦り込むと体温でほのかに香ります。心身を清めたいときはもちろん、集中したいときや気分が落ち込んだとき、気持ちをリセットするのにもおすすめです。塗香には、華やかな香水には無い静けさがあります。

このエッセイを書いているとき、素敵なご縁がありました。その方は、世界の野性動物の美しい生活を捉える女性カメラマンで、お話をうかがう機会に恵まれました。「自然界に人が入り込むことで、自然を脅かす事が多かれ少なかれあります。塗香で身を清め、心を清めてからその地へ赴きたいと思うようになりました」。香の本当の意味に気づかれ、大自然に畏敬の念を抱かれる尊いお心に感動しました。作品を見ていると、おだやかな、清らかな、やさしい気持ちになります。ウイルスの影響で、撮影にはなかなか出かけられませんが、人間の動きが小さくなっていることで、自然界はみるみる輝きを取り戻しているとのこと。都会にいても、鳥の声で目覚められるようになり、環境の変化を感じているそうですよ。
作品はこちらでご覧になれます。⇒emi nakamura(外部サイト)

人間の生活が過ぎれば、自然界の脅威となることを再認識したいですね。新生活は、自分を守るだけでなく、大きな意味で清らかなものとなりますよう願っています。
香りに癒され、ほっと一息。やさしさを取り戻して、おだやかな一日となりますように。

なむあみだぶつ・なむあみだぶ

(2020年8月24日 関 光恵 / 浄土宗僧侶)
(Photo:大隅圭介)