令和4年4月
浄土歌壇
大阪 林 孝夫
念願の海外赴任に合格する夢叶えたる子は父を越ゆ
評
何よりの喜びでしょう。それは、あるいはご自身の夢であったのかも知れないと想像もさせる。
兵庫 足立宏美
菩提寺の庭より香る老梅をそっと取り入れ換気する僧
評
菩提寺に香る老梅、「そっと取り入れ」が効を奏している。結句を上手に納め得た一首。
大阪 安藤知明
オンラインに孫登場し話したり学校のこと友達のこと
評
何よりも楽しいひとときでしょうね。いかにも今時の一首で、その有様が目に見えるようだ。
兵庫 吉積綾子
自販機の熱きコーヒー手に包みバス待つ客の吐く息白し
岡山 矢川忠彦
職退きて同期三人は八十路なり電話の声に元気をもらう
滋賀 三宅俊子
外車二台並ぶ隣がわが家です日当り良きに早さくら草が
和歌山 原 鉄也
太平洋海底火山再噴火海の神かも怒りとどめ得ず
滋賀 中村ちゑ
いつしかに春が来ました春ですよ教えてくれるスミレタンポポ
佐賀 早田なつ代
届かざる高みに皇帝ダリア咲く秋の日指しにわが身を包む
神奈川 宮川嘉作三
われ宛に大丈夫かいとメール打つ寒夜のブルース泡立つグラス
大阪 津川トシノ
緊急の持出し袋を点検すチョコの賞味期限あとわずかなり
青森 中田瑞穂
豪雪を健気に耐えしハナミズキ指差し指折り蕾数える
福岡 上野 明
枯れ草を燃やし灰にし鋤き込みて馬鈴薯畝を低く広くす
宮城 豊嶋瑞子
お茶タイムふる里の味を思い出す昔の味の一口羊羹
滋賀 大林 等
山門をくぐり一礼庭先の水仙ゆれて心和みぬ
評
元歌の下句「ゆれて水仙和心寿ぐ」であった
浄土俳壇
滋賀 三宅俊子
探梅や季寄せに二本紐栞
評
表立って気持ちを表現していない。気持ちはこの句のイメージ(五七五の言葉の絵)から感じる。二本の栞が探梅を楽しんでいるよう。すてきな俳句がきっと詠めただろう。
長崎 平田照子
唐寺に香煙満ちて春隣
評
「唐寺」は中国風の寺院、長崎らしい風景だ。その風景(五七五の言葉の絵)から春を待つ気分が伝わる。私は今、長崎に行きたくなっている。
東京 山崎洋子
カレー屋の名は鳩時計日脚伸ぶ
評
鳩時計という店に行きたい気分だ。日脚伸ぶという季語に包まれた鳩時計という店のたたずまいが目にうかぶ。その目にうかんだ絵がカレーをとってもうまく感じさせる。
富山 山澤美栄子
風花や天使のバレエ見てるよな
和歌山 福井浄堂
寒紅の淡い色して同窓会
愛媛 千葉城圓
免許証返納春立ちバスに乗る
栃木 茨木あや子
小春空赤毛のアンと猫のひげ
大阪 渡邊勉治郎
かたくりの花撮るだけの一人旅
神奈川 藤岡一彌
浅酌や籠る暮らしに余寒なほ
埼玉 須原慎子
ポンプ井戸押せば飛び出す寒の水
青森 中田瑞穂
佐保姫は気まぐれ女神大欠伸
大阪 岡崎 勲
雪しまく故郷を離る夜行バス
東京 津田 隆
春一番まだかまだかと襟を立て
大阪 光平朝乃
ベランダの鉢の手入れや木の芽風
山口 沖村去水
春が来たでは恋文をかくばかり
秋田 高橋さや薫
星ひとつ薄暮に浮かぶ冬木立
京都 北村峰月
立春や餡ののの字のタルト買ふ
京都 神居義之
雪の朝珈琲にみるく少しだけ
大阪 林 孝夫
3回目ワクチン予約すぐ取れた
静岡 市川 保
ゆっくりと杖をつきつつ菊花展
兵庫 吉積綾子
塩味にまたも手が出るさくら餅
評
「塩味が良くて」であった。「良くて」という作者の思いを消した。思いはイメージで伝えたい。