令和4年5月
浄土歌壇
青森 中田瑞穂
自販機は南部弁にて礼を言い転げ出てくる珈琲さやか
評
上句がとても良く、その土地のあたたかさや親しみさがあって、又来たくなる程の売行きかとも。
和歌山 原 鉄也
故郷は大阪湾の茅渟の海イルカの群れの白波立てる
評
自ずと情景の見えてくる一首。ふるさとを偲ぶ作者の思いがストレートに伝わってくる。
京都 根来美知代
ののさまの歌に破顔の若き僧寒行の列夕陽に向かう
評
「ののさま」は、幼児語で日月、神仏などにいう語。その場の情景見えてくるようだ。結句が良い。
福岡 上野 明
コロナ禍にブースター接種を受けに行く女医の前に左肩出す
奈良 黒松温子
二、三本梅の枝を折り仏壇へ手向けて春は一気に来たり
愛知 横井真人
幾度も遺影の妻に孫子のこと語りかけるも応答のなし
長崎 吉田耕一
リハビリに今日も感謝の妻の杖涙こらえて一歩踏み出す
大阪 永田真隆
卒園の子らに注ぎし智慧の水今日はめでたき帰敬式なり
大阪 安藤知明
ワルシャワへ逃れし友の家族より残る夫を気遣うメール
奈良 中村宗一
夫が押し帰りは妻と二台引き老々介護見本の夫婦
福岡 堺 和彦
さ緑の蕾多なる梅が枝に番いの目白移ろひ遊ぶ
埼玉 塚﨑孝蔵
ステルスで感染多しコロナ株どこに逃げるか家に居るのみ
青森 井戸房枝
吹雪く日の続きて寒し窓々を叩く音して蒲団を被る
大分 小林 繁
凍土を肥しに確と根を張りし芹の風味の起源はそこか
山口 小田村悠紀子
崖下からぬっと顔出す少年は手に回収の塵袋持つ
評
元歌の結句「持ち」を「持つ」とした。
浄土俳壇
青森 中田瑞穂
リハビリを兼ねるトランプ春の雲
評
季語「春の雲」のあたたかさ、気ままさがいいなあ。トランプ、負けてばかりかも。でも、それもよいと負けを肯定しているのがこの句。
京都 北村峰月
卒業や以下同文を筒に入れ
評
知的な見方がちょっと川柳的だが、特に傑出していたわけではなく、以下同文の多数派だったことを肯定している。その見方に賛成だ。
東京 椎野恵子
鳥の体温春の雪のまんなか
評
積もった春の雪の中に鳥がいるのだ。鳥の体温そのものの感じで。あるいは、春の雪の中で手を翼のように広げ、鳥の体温の自分になったのかも。いろんな読みを誘うところがとてもよい。
京都 根来美知代
子犬ごと駆けて転がる花の土手
神奈川 上田彩子
雛かざる媼の一人遊びかな
大阪 西森呑子
祖父三代家は福島辛夷咲く
大阪 光平朝乃
あたたかや路面電車の大まがり
東京 山崎洋子
沈丁の風に膨らむバスタオル
兵庫 吉積綾子
着ぶくれてずっしり家長の顔となる
滋賀 三宅俊子
青き踏むシルバーカーのわが影と
群馬 木村住子
雪解風弓道場の遠き的
長崎 久田浩一郎
カステラを切り分けてゆく春の昼
埼玉 三好あきを
パートナーは吾が膝小僧春寒し
大分 吉田伸子
二月尽健康チェック入力す
兵庫 堀毛美代子
美術館出て立杭の春惜しむ
愛知 瀧本憲宏
ひたひたと水しんしんと芦の角
神奈川 藤岡一彌
暖かや小さき仏像彫る窓辺
東京 池田眞朗
幼な子の黄色い手袋ウクライナ
愛媛 千葉城圓
春の雲離任の先生見送りぬ
東京 樋口七郎
一葉の坂道はここ梅の花
評
「愛す坂道」が原句。作者の思いが強く出た「愛す」をやめ、一葉の愛した坂道を強調した。