令和4年6月

投稿日時

浄土歌壇
堀部知子 選 投歌総数186首

京都 木瀬隆子

この柊樹齢百年は数少なくエメラルドのごと若葉の光る

人生五十年から人間も寿命が延び百歳を越える人が居る現今、柊の百年におどろき下句が特に良い。

兵庫 中西一朗

墓に来てまた働ける嬉しさに春の童謡口ずさみをり

健康であってこその喜び、働けることの喜び、まずは墓前に来て告げる作者の思いもひとしおである。

大分 小林 繁

漆黒の空に音無く灯の流る高空一万旅客機の飛ぶ

この一首を読む人のそれぞれは、あらためて空を見上げ、豊かな想像力を発揮されるかもしれない。

長崎 片岡忠彦

二人旅木魚身のたけ善導寺名刹訪ね御朱印受くる

東京 田中恭子

卒園の孫を迎へる役終へて寺に寄り道牡丹餅供ふ

東京 代田ユキ

「じゃっぱ汁」作るも母の味せぬと故郷の弟雪降る夜に

青森 中田瑞穂

欠伸して客待つ床屋を通り過ぎ長閑が良いと過疎の村に住む

奈良 中村宗一

給食を無言で食べる味気無さ楽しいはずが三密怖し

大阪 安藤知明

ワルシャワに避難せし友職のためポーランド語を習い始めたり

宮城 豊嶋瑞子

もう四月薯蒔く季が迫り来て種薯選ぶサイズとカタチ

大阪 津川トシノ

レジ待ちに関所のような甘味の棚誘惑に負け最中を二つ

福井 杉谷小枝子

友よりの米寿の祝いのマフラーを締めれば温し初詣でなり

京都 根来美知代

これからももっと知りたい学びたい思う端からこぼれる記憶

大分 吉田伸子

過ぎし日の家族写真のセピア色ベビーは私母に抱かる

福岡 柴田ヤス子

また来年言いつつ仕舞うお雛さま来年もまた会える気がして

元歌の結句は、「あえるかなあ」であった。

浄土俳壇
坪内稔典 選 投句総数258句

東京 山崎洋子

自転車も乗せる単線風光る

単線の列車にも春が来た。運ばれて行った自転車が動き回ってさらに春を広げるのだろう。

青森 中田瑞穂

春灯や海の向こうは北海道

季語「春灯」は町の季語というか、ちょっと恋情などが漂う艶めかしい語だ。この句、津軽海峡が春灯に新しい情緒をもたらした。津軽海峡春景色だ。

埼玉 山本 明

守宮の子ふにゅふにゅお腹は一センチ

最後の「一センチ」がとっても具体的でいいなあ。守宮の子をのぞきこんで見ている人の息づかいまでが感じられる。

山梨 山下ひろ子

二人して餡を選びて山笑う

三重 眞泉知佐

桜花ふれてみている二人づれ

大阪 光平朝乃

つつじ咲く高架を走る環状線

山口 沖村去水

水鳥の背中は丸し日脚伸ぶ

大阪 福村昭裕

炎の人と又会ふ春の絵画展

大阪 林 孝夫

レストラン桜御膳は明日からか

京都 根来美知代

玄関に重なるズック春休み

東京 津田 隆

啓蟄に運動靴を下ろしたる

大阪 大内純子

春疾風少女ゆったり大人びて

京都 神居義之

これが春愁かと自転車漕ぎたり

滋賀 三宅俊子

御手洗の杓に揺れ添う桜蕊

青森 井戸房枝

春風や何処へ行くにもマスクして

福岡 古野ふじの

図らずも朝の窓の春の虹

岩手 菊池 伉

残雪の里山高く鳶の舞ふ

大阪 津川トシノ

ツアーバス新樹の海に出航す

群馬 本多義平

花吹雪元気な子等についていく

島根 内田広平

春暁や若き棟梁の鑿の音

栃木 伊藤和子

もう少し話していたい土筆

奈良 畷 崇子

春の湖や櫂の滴の飛び散りて

和歌山 福井浄堂

陽炎や辞儀深々と村の僧

東京 椎野恵子

花の雲笑いじわどんどん増える

東京 池田眞朗

桜掃くほうきの上に桜散る

兵庫 吉積綾子

ドア開ける一かたまりの花吹雪

「ドア開けて」が原句。「て」を「る」にすると場面に動きが生じ、生き生きとする。