浄土宗新聞

連載 仏教説話に見られる植物 第2回 マンゴー

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イラスト 木谷佳子

 お釈迦さまの前世を描いた物語『ジャータカ』をはじめ、仏教経典には、数多くの「植物」が登場します。この連載では「仏教説話に見られる植物」と題して、一つの植物を、その物語の情景とともに、紐解いていきます。
 第2回目は、芳醇な香りととろけるような甘みから「果物の王様」とも称される「マンゴー」が登場するお話です。

神聖な果物

マンゴーは、高さ40㍍ほどにもなる大きな樹木で、濃厚で特有の甘さを持つ実をつけます。
 インドの民話や伝説の中で、マンゴーは魔法の特性を持つ神聖な果物として描かれ、繁栄と豊穣を象徴する女神ラクシュミとも結びつけられています。
 今回は、『ジャータカ』にあるマンゴーにまつわるお話を紹介します。

偉大な猿の王

昔、ヒマラヤの山奥、ガンガー河のほとりに、8万匹の猿とそれらを率いる強くて賢い猿の王が住んでいました。彼らの住処には、1本のマンゴーの大木があり、甘く香り高い絶品のマンゴーが実っていました。
 あるとき、川に落ちて流された一つのマンゴーが、下流で網にかかりました。それを食べた王さまは、おいしさにびっくり。マンゴーを独占しようと、軍勢を率いて猿たちの住処へと押し寄せます。到着すると早速、実を味わい、満足した王さまは、そこで野営をすることにしました。
 その夜、猿たちが木の上でマンゴーを食べていると、それを見つけた王さまは怒り、家臣たちに「猿たちを射殺せ」と命じたため、群れは絶体絶命の危機に陥ります。
 猿の王は仲間たちを逃がすため、対岸に飛び、対岸の木とマンゴーの木を蔓で繋ぎ橋にしようと、木と自分の体に蔓を結びつけて飛び戻りました。しかし、蔓の長さがわずかに足りず、マンゴーの木には届きません。そこで、枝を両手で掴み、橋を完成させたのです。仲間が渡っていく激痛に耐え抜きましたが、最後に猿の王の座を狙う猿が、王の背中にわざと飛び降りて背骨を砕きました。
 猿の王の、「自分自身を犠牲にして、民を救おうとする姿」を見ていた王さまは、言葉を失うほどの衝撃を受けました。王さまはすぐに瀕死の猿の王を救い出し、なぜそこまでして尽くすのか、その真意を詩に託して問いかけました。

みずからを、踏ませてまでも
河を渡らせ、皆を救う。
あなたは彼らの何なのですか。
彼らはあなたの何なのですか。
大猿よ。

これを聞いた猿の王も、詩で答え返しました。

私は王で彼らを治める頭です。
恐れ怯えて泣き崩れる
彼らを決して見放すものか。
後ろ足に蔓をしばり、
百本の矢を巧みに避け、
風に飛ぶ雲のように、
河をひらりと飛び越えた。
マンゴーの幹にはとどかぬが、
両手で枝をしっかりと捉えた。
蔓と私を橋にして、
猿たちは無事に河を渡った。
蔓の枷は私を痛めつけず、
死も私を苦しめない。
彼らに平和をもたらして、
王の務めを果たしたのです。
王よ、これはあなたにも良い例えである。
王たるは、国、国民、兵隊、村、
すべてのものに、幸せを与えるべきです。
それは、政治家の務めである。

説法を終えた猿の王は息を引き取りましたが、王さまは彼を国王と同様の葬儀をもって葬り、その教えを生涯守り続けました。

利他行の精神

 お釈迦さまは、王子として生まれさとりを得るまでに、生まれ変わりをくり返していました。
 このお話は、お釈迦さまがジェータ林(祇園精舎)にいた時、他者に利益を与える利行について語ったもので、その時の王はお釈迦さまの十大弟子の一人アーナンダであり、猿たちはブッダの弟子たち、猿の王はお釈迦さまの前世の姿です。
 この物語は、リーダーが持つべき真の道徳と、私利私欲を超えた責任の重さを伝えています。