連載 仏教説話に見られる植物 第4回ハナモツヤクノキ

イラスト 木谷佳子
神が姿を変えた植物
ハナモツヤクノキは、花が炎のように赤く見ることから、インド神話で、火の神・アグニが姿を変えた「聖なる木」とされています。
また、密教の護摩では、薪や供物として使われる非常に重要な植物です。
今回は、『ジャータカ』にあるハナモツヤクノキがモデルとなったお話を紹介します
キンスカの木
昔、バーラーナシーという国の王には4人の王子がいました。ある時、「キンスカ」という名の木について興味を持ち、その姿を自分の目で確かめたいと考えました。そこで、御者に願い出て、森へ連れて行ってもらうことにしました。
しかし、馬車には一度に一人しか乗れず、御者も多忙であったため、4人の王子はそれぞれ異なる時期に、一人ずつ森へ案内されることになりました。
第1の王子が案内された時期は、木がちょうど赤い芽を吹いている時期でした。次に第2の王子が訪れた時は、若葉が青々と茂っていました。第3の王子が訪れたのは、手のひらのような真っ赤な花が咲き乱れる時期。そして最後の第4の王子は、花が終わり、たくさんの実がついている時期に木を目にしました。
後日、王子たちが集まり、得意げにキンスカの木について語り合いました。「キンスカの木は、燃える柱のように赤い芽が美しい木だ」と長男が言えば、次男は「いや、緑の葉が茂る大きな木だ」と反論します。三男は「手のひらのような真っ赤な花が咲く木だ」と主張し、四男は「実が見事な木だ」と言い張りました。4人は、互いの意見を全く受け入れようとせず、激しく言い争い、ついに父王のもとへ裁定を仰ぎに行きました。
王は4人の話を静かに聞き終えると、「お前たちは皆、確かにキンスカの木を見たのだ。しかし、その時々の姿がなぜそうであるのか、時期によってどう変化していくのかを、なぜ御者に詳しく聞き、学ぼうとしなかったのか。目の前の断片的な姿だけを見て満足してしまったから、木の本質を捉えることができなかったのである」と諭し、詩を唱えました。
皆がキンスカを見たとしても
なぜ疑いを起こさぬのか
あらゆる場合について
なぜ者に御尋ねぬのか
王はさらに続けました。
「物事を正しく理解するには、一時の姿に惑わされることなく、あらゆる側面から全体像を捉えようとしなければならない。自分の知恵を絞り、分からないことは素直に問い、一つひとつ疑問を解消していくことで、初めて物事の本当の姿が見えてくるのだ」
この教えに深く感銘を受けた王子たちは、自らの浅はかさを恥じました。それ以来、彼らは目に見える一部分だけで判断せず、よく観察し、多角的に考え、学び続ける修行を重ねました。こうして偏った知識に囚われない広い視野を身につけた4人は、やがて人々から尊敬される優れた人物へと成長していったのです。
「正しい知恵」を持つ大切さ
お釈迦さまは、王子として生まれ、さとりを得るまでに、生まれ変わりをくり返していました。
このお話は、お釈迦さまがジェータ林(祇園精舎)にいた時、「自分の小さな見識に囚われることなく、物事の本質を見極めることが修行者にとって重要である」とさとりを求める修行者に語ったもので、王はお釈迦さまの前世の姿です。
この物語は、物事を多面的に捉えることの大切さを伝えています。